「スピリットベアにふれた島」

 NVC(Nonviolent Communication/非暴力コミュニケーション)は「修復的司法」に則った言語です。「修復的司法」とは、他者に困難や打撃を与えた加害者を裁いたり、罰したりする「応報的司法」とは違い、話し合いを通じて加害者が自分を見つめ直す機会を提供し、自分の責任を自覚して被害者の回復に尽力することで、加害者と被害者がつながりを取り戻し、加害者自身が立ち直っていくプロセスを指します。……と説明すると、概念的で難しそうですが、この「スピリットベアにふれた島」を一読すると「こういうことか~」とよくわかります。

 

 ハードカバーのこの本は児童文学で厚いものの、読み始めると物語の世界へグイグイと引き込む力があります。怒りに支配されていた主人公がどうなっていくのか。リアルで生易しい夢物語ではない世界がそこにはあります。関係者と話し合いへの参加を希望する人たちが、全員でサークルになって、キーパーの進行のもとで話し合う「サークル・ジャスティス」の様子や、過酷で偉大な自然、孤独、そして怒りと向き合うシーンも出てきます。

 

 昨年の第5回体験学習実践研究会で、この「サークル・ジャスティス」の対話の手法である「リストラティブ・サークル」を長田誠司さんにご紹介いただきました。そのときに(リストラティブ・サークルやNVCは)「葛藤をなくすわけではない」と言っていましたが、「スピリットベアにふれた島」を読むと修復的司法のなかにも葛藤があることがわかります。自分との葛藤も、他者との葛藤も並大抵ではないけれど、葛藤を乗り越えるときに人の強さと偉大さが見えると思いました。

 

 自分や他者とのつながりは本当にかけがえのないものです。

 

「スピリットベアにふれた島」 ベン・マイケルセン
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