真面目に語り合うこと
先日、中学1年生の生徒さんを対象に、ラボラトリー方式の体験学習を用いた半日授業を行いました。そのときに自分を支えてくれた人や今、支えてくれている人たちを色や形で描いて、自分の対人地図をつくる「わたしの対人地図」という実習を実施しました。多くの生徒さんが熱心に対人地図を書き、ふりかえりの時間には人それぞれに自分の思うことを素直な言葉で綴りました。ただ、わかちあいの時間になると、ふりかえり用紙に綴ったコメントをそのまま読むこともままならず、一部分を読むだけで発言の順番を終えてしまう生徒さんがあちこちにいて、ちょっぴり残念に思いました。
ところが、授業の合間の放課中に3人の女の子たちに「どうだった?」と話しかけてみると、一人の子が「対人地図をやったあとのわかちあいで、初めて男の子と真剣に話しました」と言ったのです。そんなグループがあったとは気づかなかったので、「えっ、本当?どんなふうに話したの?」と興味津々で尋ねました。すると、その子は「男子がすごくていねいに自分と対人地図に書いた人たちとのつながりを話してくれて、私はそんなふうに男子と話したことがなかったから、うれしかった」と笑顔で答えてくれました。それを聞いて、私もうれしくなりました。
人間には真剣に語り合える他者の存在が必要です。特に自分の気持ちの動きや環境の変化を感じやすい思春期は、自分の思いや考えを真面目に話せる他者がいることで、随分ラクになったり、逆に刺激を受けたり、あるいは思考を修正できることもあったりして助かります。そういう他者の存在はなかなか見つけにくいものですが、一度でも真剣に人と話す経験が持てれば、それ以降は茶化すことなく話すタイミングや感覚がつかめるようになるのではないかと思います。私はこの体験学習のわかちあいが、彼女たちにとってそんなきっかけになるといいと思いました。そして、そういう人間関係を築くことができれば、大人になっても他者に同調するだけの表面的な関係に終始せず、必要なときには人と真剣に向かい合えるようになっていく気がします。