実践のための理論
JIEL研究員として、ある企業の研究開発に携わる方々を対象に、ファシリテーター養成研修を行いました。その企業は、研究開発の部内にファシリテーター的なかかわりができる社員を育てて、最終的には部内の全部署・全チームのメンバーがファシリテーター的なリーダーシップを発揮できるようにし、お互いを支え合い、引き出し合える主体的な社内風土を醸成したいと考えています。大きな目標です。
そうした大きな目標があるから、会社の参加者に対する期待は大きく、研修後も参加者が日常的にファシリテーターとしてのかかわりを職場の中で実践し、広めていけるような機会を創出する計画も進めています。そのため、参加者は真摯な姿勢で「少しでもファシリテーターとして活動するためのスキルや知識を身につけたい」という思いで研修に臨んでいました。
私の中でも「クライアントである企業や参加者の期待に応えたい」という思いが高まっていました。
そういう背景があったからかもしれませんが、当日いっしょに研修を行うコ・ファシリテーターとともにプログラムを立案し担当を決めて、準備を進めていく過程で、私は改めて自分が理論的な裏付けに基づいて、小講義の内容や実習の選択ができて良かったと思いました。もちろん、「こうしよう」と決めたあと、その関連資料を探して読んだり、自分の理解を深めたりする必要はまだまだあります。しかし、単にイメージや感覚に依存して、重要な研修の内容を決めるのではなく、根拠のあるプログラム設計や小講義ができることは、参加者にとって納得のいく学びの場をつくるために不可欠です。
実践を控えた参加者が何を学び、どのような行動のヒントをつかんでいくか。それは最終的にはその人次第になりますが、ファシリテーターが理論的な裏付けのある参加者中心の学びの場づくりを心がけることで、軸がブレることなく学びの間口と学び方の自由度が広がり、多様な学びの可能性が生まれるような気がします。実際、研修の最後に参加者に一言ずつ今回の学びについてコメントしてもらったときに、他の誰とも共通点のない独自のコメントをしてくれた人が何人もいました。どこから学ぶかはまさに人それぞれ。実践のための知識・スキルだからこそ、おそらく誰もがその時の自分にとって必要なことから学んでいくのでしょう。