無人駅-この夏のひとときの
場所は三河ののどかな田園地帯。
一仕事終えました。そこからが少し大変。駅まで歩く時間は20分。この真夏の炎天下、首にタオルを巻き直します。
太陽はまだ高いし、まわりの建物も背が低いこともあって、歩きはじめは道に陰もありません。しきりに汗をぬぐいます。歩く前にスポーツドリンクを買っておいてよかった。
しばらく歩き、折れて道を下っていきます。小さな川が流れています。いってもちょっとした谷です。小橋を渡ると目の前は林の中の急な登りが待ち受けます、そのふもとで一息。坂は木々が生い茂り、かげろうが飛び交い、気分は安らぐのですが、汗は吹く。
坂を登りきり、お地蔵さんにご挨拶をすれば、駅までは平坦な道です。路線橋をまたぎ、小さな無人駅の駅名をみるころには服に汗が染みています。
1時間に1本の電車が往来する無人駅。まだ電車が来るまでには時間があって、駅にいるのは私ひとり。やれやれ、とベンチに目を向けると、小石に置かれたメモがある。
「ご自由にお持ち下さい」、横に茄子が5本。
メモの左下に小さな赤い字で「ありがとうございます!!」と書いてある。だれかが1本(2本?)、もっていったのでしょう。
蝉が鳴き続ける静寂、スポーツドリンクを一気に飲みます。
「ありがとうございます!」と同じく赤い字で書き添え、かばんに入れるなすび1本の音。
ワンマンカーがやってきた。外から「開ける」のボタンを押してドアを開けます。椅子に腰かければ、エアコンの冷気が桃源郷からの帰路であることを気づかせます。
私は電車の人となり、一時の夏の小旅行を脳裏に刻みます。