万年筆はいいね

小学生のころか、中学校入学のときか、いつだったか定かではないが、父から万年筆
をもらった。父はモンブランの万年筆を愛用していて、父のデスクにはダークブルー
のインク瓶がおいてあったのを覚えている。なんかとってもかっこいいなと思ってい
た。しかし万年筆など子どもの頃の私にはまったく必要ないもので、いくら高価なも
のだと言われても、あまりうれしくなかった。高価だからこそ使うのが怖いなと思っ
ていた。そういうわけでずっとどこかにしまいこんでいた。
ずーっと忘れていたのに、近頃、その万年筆が見つかった。[MONTBLANC noblesse]
と書いてあった。「高貴な」という名前がついたその万年筆は細身で重量感がある。
添えてあったインクカートリッジのインクが未使用なのに半分以上も減っていた。そ
れは私がもらったまま放置していた年月の長さを物語っていた。久しぶりに父親に出
会ったような感慨があった。インターネットで検索しても、もうこのタイプの万年筆
は製造していないようで、インクをどう入れたらいいのか、古いインクカートリッジ
を使っていいのか心配だったので、万年筆の専門店に行った。店主と思われる品のあ
る年配の男性に状態をみてもらった。「これは高価な万年筆ですよ。大切に使ってく
ださい。お手入れすれば長く持ちますよ」と言ってくださった。その優しい言葉に、
父との思い出も大切にしてもらったようで、私はとても満ち足りた気持ちになった。
今から思えばなんで父は子供私にこの万年筆を贈ったのか不思議でならない。道具は
人を選ぶということか、30年以上も経ってようやく使わせてもらえるようになった。
力を入れなくてもすべるような書き心地がとてもいい。お父さん、今度こそ大切にし
ます…万年筆はいいですね。