欲望の代償
ずいぶん秋らしい季節になりました。この頃、近所を歩いていると、どこからともなく異臭が漂ってきます。ふと下を見ると、足で踏まれたのか、銀杏がぐちゃっと落ちてつぶれています。ふと見上げれば薄いオレンジ色の実がたわわに実っていて、枝が重そうにしなっています。枝を揺らして落としてあげたいような気持ちになりました。
こんな話を母親にしたところ、「いいねぇ、銀杏とりに行きたい!」という話になり、早朝6時に、散歩がてら採集しにいきました。朝の街路には落ちたばかりの銀杏の実がいたるところに落ちていて、コンビニの小さな袋を持って行ったのですが、あっという間に袋がいっぱいになりました。袋いっぱいになったのに、それでもまだぎゅうぎゅう詰めて、はちきれんばかりになりました。冷静に考えてみれば親子2人暮らしで、そんなに銀杏を消費することもないのですが、採ることに夢中になって、落ちている実はすべて採りつくしてしまいたいような欲求がむくむくと起こってくるのでした。
家に帰ると母親がゴム手袋をして半日以上も費やして、銀杏の果肉部分をはがし、タネだけを取り出して、天日干しをしました。恐ろしい異臭があたりに漂っていました。さぞかし近所迷惑だったでしょうね…。3日間の天日干しの後は、殻を割る作業が待っています。殻を割るための器具、その名も“銀杏坊主”を購入しました。殻がおもしろいほどバキバキ割れてちょっと楽しくなりました。そこから延々と3時間以上、私が殻を割り、母親が実を取り出す流れ作業が続きました。次はゆでる作業、そして薄皮を剥く作業と、ほとんど1日をかけて、ヒスイのような美しい銀杏の実が山のように出来上がりました。
これで冷凍しておけば正月まで大丈夫だね…と喜んでいたのもつかの間、翌日母親が銀杏にかぶれて顔中真っ赤になってしまいました。皮膚科に受診して「この時期、銀杏にかぶれる人多いんだよね。」と言われたそうです。実を食べてもかぶれることはないのですが、「顔の赤みが治るまでは銀杏のことを思い出すのも嫌」という感じの母親です。何事もほどほどにということでしょうか…。来年は“銀杏坊主”の出番がないかもしれないなぁ〜と少しさびしく感じています。