生活ってなんだろう?

今年から「精神保健福祉相談援助の基盤」という授業を担当することになった。「相談援助の基盤」というだけあり、原理・原則、価値・倫理ばかりが教科書に載っている。「自己決定」「人間の尊厳」「ノーマライゼーション」「権利擁護」「社会正義」「社会的包摂」などなど、なんとなく理解はできるけど、雲をつかむような実態があいまいなことばが並んでいる。

この授業を担当するようになって、言葉の意味をよく吟味するようになった。今一番気になっているのは「生活」。学生と関わる中で「生活体験の乏しさ」を感じることが多いからだ。当事者の生活を他人事のように捉える傾向がある。しかし生活ってなんだろう?…命を長らえること、日々のくらし、仕事をすること、衣食住、ライフイベント、健康、地域とのつながり…いくつか浮かんでくるものの、どれも生活の一部をきりとって表現しているだけで、生活とはこれだ!と言い当てることは難しい。精神保健福祉士は、当事者の疾患や障害にかかわるのではなく、生活者の視点で当事者の生活にかかわるというが、生活そのものがつかめないのだから情けない。

先日、私が一人暮らしを始めてずっと使用していた、2ドアの小さな冷蔵庫から3ドアの大きめ冷蔵庫に買い替えた。当たり前だが、容量が大きいし、野菜室があるし、チルド室もあり、しかも勝手に氷ができてしまう…。5000円で引き取られた過去の冷蔵庫は、三度の引っ越しに堪え、一度も故障せずよく働いてくれたが、やっぱり新しい冷蔵庫はいいものだ。あけるたびにワクワクしている。母親がしみじみと言った「氷がある生活って豊かだね」という言葉を聞いて、生活ってこういう感覚なんだよなと思った。

こんな言葉にならないような感覚は、いくら言葉を尽くして説明しても理解してもらうのは本当に難しい。でも学生と共に試行錯誤してみるしかない。