自分を見つめる自分を育てる

アサーション・トレーニングの一環として、最近の私はマーシャル・ローゼンバーグさんによるNVCの理論をもとにしたグループワークをよく行います。ある特定の場面の自分の感情や必要とするもの(ニーズ)を探索していくワークで、これを体験してみるとほとんどの人が自分の感情やニーズの多様性に驚きます。人間の感情やニーズはミルフィーユのように重層的になっていて、表層的な感情・ニーズから深層的な感情・ニーズまで多彩にあり、どこに目を向けるかによって、自分の心持ちや行動が変わってきます。
小林秀雄は「美を求める心」という著作のなかで次のように述べています。
「泣いていては歌はできない。悲しみの歌をつくる詩人は、自分の悲しみを、よく見定める人です。悲しいといってただ泣く人ではない。自分の悲しみに溺れず、負けず、これを見定め、これをはっきりと感じ、これを美しい言葉の姿に整えて見せる人です。
 詩人は、自分の悲しみを、言葉で誇張して見せるのでもなければ、飾り立てて見せるのでもない。一輪の花に美しい姿がある様に、放って置けば消えてしまう、取るに足らぬ小さな自分の悲しみにも、これを粗末に扱わず、はっきり見定めれば、美しい姿のあることを知っている人です。」
ありのままの自分を受け容れることは、感情に溺れ支配されることではありません。自分の中にわき起こる多様な感情に気づき、味わい、その背景にあるニーズに目を向けてつながっていく過程が自己共感であり、自己受容のプロセスといえます。小林秀雄は美に対するニーズを満たすために、詩人の中で起こるプロセスを的確に言語化していると思います。こうした過程で必要なのは、自分を客観的に見つめるもう1人の自分の目。「メタ認知」という言葉が今は一般的ですが、例えば心から喜んでいるときに「わー、うれしい!」と言うだけでなく、「今、私は喜んでいる」と自身の感情を意識化する能力のことです。
研修や講座に参加してくださるみなさんにこうしたことをお伝えし、「自分を見つめる自分を日常のなかでぜひ育てていってください」と言いながら、「私自身も今、自分を見つめる自分を鋭意育成中です」と言っています。自分を大切にするということは、自分の主観だけでなく客観も大切にし、自分の中に豊かな視点を育てていくことでもあると思うこの頃です。
※私はNVC認定トレーナーではありませんが、NVCに賛同し、自身が担当する研修・講義のなかでNVCの学びをシェアしています。