地域の力
福井県小浜市阿納に、鯛を釣って、さばいて、食べることができる「ブルーパーク阿納」という体験施設があります。
http://bluepark-ano.com/
ここは何と阿納地区の民宿を経営するみなさんが、「体験の機会を提供することで、多くの子どもたちを受け入れたい」と一念発起して開設し、現在も協同で運営する施設です。今でこそ、魚をさばく調理室や魚を焼いて食べるバーベキュースペースには屋根がありますが、開設当初は建築用の足場を組んで支柱にし、ブルーシートをかけて屋根にしていたというから驚きです。本当に手づくりの施設です。
そんな「ブルーパーク阿納」を知ったのは、10月31日、11月1日と若狭観光連盟主催の研修で福井県へ行き、31日の夜はその「ブルーパーク阿納」を運営する阿納地区の民宿、「グルメ民宿はまもと」さんに泊まったからです。女将である浜本さんは研修にも参加されていて、1日の早朝、私を「ブルーパーク阿納」へ案内してくださいました。
日本海の大海原を見晴らせるリアス式海岸の湾内にある「ブルーパーク阿納」は、海の釣り堀というだけあって広々としていて穏やかな印象です。釣りが初めての子どもたちも、きっと挑戦したくなりそうな開放感があります。そんな釣り堀を目前にした岸壁には、屋根付のバーベキュースペースがあり、その奥には魚をさばく調理室があります。いずれも小学校や中学校の生徒の受け入れを念頭においてつくられた施設だけあって、最大154名収容という広さです。
なかでも感心したのは、調理室にまつわる多くの工夫でした。例えば、調理室の水道は調理位置ごとに蛇口があるわけではなく、一列ずつ水道パイプを通して調理位置に穴をあけ、その列の蛇口を開ければ、どこも均一な水量で魚を洗えるようになっています。これは、ブルーパークが行政や企業によってつくられた施設ではなく、民宿のみなさんが手づくりでつくった施設なので、蛇口のような高価なものをたくさん買う資金がなく、苦肉の策で考えた方法だったそうです。ところが、実際に列ごとに通した水道パイプに穴を開けて、魚さばき体験を始めてみると、生の魚に触れたことのない子の中には放っておくといつまでも魚を洗い続けている子もいて、列ごとに一律に水を加減できるほうが返って都合がいいこともありました。
そして、圧巻は魚のさばき方の指導とさばき体験のサポートです。魚のさばき方は紙芝居形式で教えるとともに、発泡スチロールでつくった大きなプラカードくらいの大きさの包丁を使って、包丁の動かし方や刃の向きを説明します。それに加えて、調理室には箇条書きにした手順が列ごとに見える場所に貼ってあり、何と生徒受け入れの際には民宿の方々が総出で列ごとに付いて、鯛の半身は刺身に、残りの半身は焼魚用に全員がおろせるようにサポートしているといいます。その際のスタッフ配置表を見せていただいたところ、苗字の表記は一切なく、全員「みどり」「新一」等と名前で表記されていました。「家族全員が手伝うから、苗字で呼んでたら誰かわからないんです」と浜本さん。まさに家族総出です。
「ブルーパーク阿納」は成り立ちも、運営する日常も、常に関係者が知恵と力をふり絞って一歩ずつ歩みを進めています。その存在自体が、民宿のみなさんの絆の証であり、それを続けることでお互いの関係がどんどん深まり、地域の力が強くなっているのだと思いました。そうした地域の力こそ、これからの時代を生き抜くには何よりも大きい財産ではないでしょうか。