被災地キャリア・コンサルタントの話をきいて

厚労省の委託事業としてキャリア・コンサルティング協議会が開催した会で、東日本大震災の被災者であり、現在も南相馬市でキャリア・コンサルタントとして活動している方の話をきいた。その方のお話をきいて、被災者支援というのは特別なことではなく、自分のできることを力まずに精一杯行うことなのだと感じた。大変印象的だった話が2つある。
1つは被災後、少し落ち着いた頃、その方が就職支援のために出向いていた高校の先生から、「こんな時期だからこそ、今年も支援してほしい」と言われたときのこと、その先生の言うことは充分理解できたが、役所には高校の就職支援に出す助成金はもうないのではないかと思ったその方は、すぐ役所に出向き、問い合わせてみたという。すると、予想通り、役所の人たちは避難先や住まいの復旧等、生活インフラの手配や確認で手一杯で、とてもキャリア支援どころではない様子だった。しかし、そこでどんな状況でも必ず時期が来れば卒業、就職という節目が訪れ、そのときに何もしていなければ、より被害が大きくなることを話し、ある程度の理解が得られたところで、その方は再び高校へ駆けつけて、校長名で就職支援を希望する申請書を発行していただき、それを役所に提出したという。おかげで、その方は現在、その高校での就職支援を引き続き行っている。途方に暮れるような状況のなかで、的確な判断をし迅速に行動したその方を「スゴイ」と私は思った。
仕事に就くために大切なことは、「自己理解/仕事理解/情報収集」の3点であり、それはクライエント(相談者)だけでなく、キャリア・コンサルタント自身にも問われる。前述したケースは、話されたキャリア・コンサルタントが自分にできることを理解し、就職支援の仕事に必要な働きかけも理解したうえで、学校や役所の人たちと直接話して情報収集しながらとった行動である。「“今ここ”でできることをやりきる」ことの意義を実感させられたケースだった。
もう1つ印象に残ったのは、「人と比べる必要はない」という言葉だ。被災地では家をなくした人、会社がなくなった人、家族を失った人がたくさんいる。けれど、幸運にも何も失うものがなかった人でも、心理的なダメージを受けている人はいる。その方がいろいろな人の相談を受けていると、「私なんか何も失っていないのに、ダメだと思うんですけど」等と人と比べて自分を責める人が結構いるという。そういうとき、「悩みや不安は人それぞれのものだから、人と比べる必要はない。自分の思いをありのままに話してください」とクライエントに語りかけるという言葉に共感した。
講演の終了後、グループに分かれて感想をわかち合い、話し合う時間をもった。そこで、同じグループになった経理実務を教えていらっしゃる方が、「学習者のレベルは千差万別だけど、人と比べる必要はない。学歴や居住環境など人それぞれ背景が違うのだから、できることに個人差があるのは当たり前。むしろ、そのときその人がどれくらいできるようになったかをきちんと見て、努力や成長を認めることが大切」と言ったことに、再び共感した。ここでも「人と比べる必要はない」なんだ、と。
相対的にモノを見ることも必要だが、自分や個人の軸を大切にして世界を見ること、かかわることの大切さをいつも心に留めておきたい。