「7人に1人の子どもが貧困」を読んで
この本のタイトルを見ると、「そうそう、日本は先進国のなかで相対的貧困率が高いんだ」と関心をもつ方が多いのではないだろうか。
読み始めてみると、子どもの貧困の紹介・対策という視点だけでなく、サブタイトルに「主体的な18歳を社会に送り出すための学校コーディネート5つの提言」とあるように、目的を「主体的な18歳を社会に送り出す」ことに定めて、学校教育をこんなふうにするといい、こんなことをやってみる方法もあるといった具体的なプランがいろいろ提示されている。そのため、生活困窮家庭の児童のみならず、多くの子どもにとって有益な内容で、学校教育に携わる方、学校教育を考える方はもちろん、子どもの貧困やその連鎖に問題意識をもつ方にとっても具体的で興味深い一冊であろう。
編著者のNPO法人アスクネットには「キャリア教育コーディネーター」と肩書きがついており、こうした取り組みを「キャリア教育」と捉え、その範疇で提言していることに新鮮な納得感を覚えた。今は自分が福祉分野の教員であるため、ソーシャルワークの文脈で捉えがちだったが、そういえばキャリアの文脈で考えることもできるんだなと思った。これは、私にとって今さらながら必要な気づきだった。キャリアの文脈で考えれば、子どもたちに対する学習支援でできることは、さらに広がる気がする。
また、アスクネットが名古屋のNPOということもあり、名古屋市や愛知県内の学校における子どもの貧困対策を見据えた教育制度・体制・取り組みが具体的に紹介されていることも参考になった。地元であっても、知ろうとしなければ何も知らないままなので、実は名古屋が先進的な取り組みをしている都市であることを遅ればせながら認識した。
少々残念に思ったのは、体験学習の充実、体験活動の必要性を説くくだりが、生活・文化体験活動、自然体験活動、社会体験活動という文部省の定義に則った解説・紹介に留まっていたことだ。教室のなかでできる「ラボラトリー方式の体験学習」は登場せず、「GWT」「構成的エンカウンターグループ」にも触れていない。体験活動によって高めることができる主体性、協調性、変化対応力などなどの「非認知能力」とは、人間関係をみる2つの視点でいう「プロセス」に働きかける力に他ならない。それでも出てこないのは、この本の執筆者をはじめとしたステークホルダーの方々にとって、利用可能な資源としての「ラボラトリー方式の体験学習」への認識がなかったからであろう。
思い返してみると、2000年代のJIELが任意団体として発足した頃は、私も研究員として名古屋市内の小・中学校の先生方を対象とした「ラボラトリー方式の体験学習」の研修をよく担当させていただいた。しかし、近年の私は「私も、あなたも大切にするコミュニケーション(=共感でつながるアサーション)」中心で、「ラボラトリー方式の体験学習」を提供する場は少なくなっている。もちろん、所長のつんつんや他の研究員は精力的に活動しているが、学校教育へのアプローチは減っているかもしれない。そういった意味でも、個人的にはインパクトのある本だった。