自分を出さないことです

 2月に入って中ごろのこと。週末だったと思いますが、テレビをつけました。

 「和風総本家」。昼の放映だったので、再放送だと思います。その回の特集は、日本の職人さん、なかでも修復再生をする職人さんの特集でした。

 長野に住むご夫婦が、子どものためにおばあちゃんから譲り受けた雛人形を飾ろうとしたのですが、ものが古いせいでお内裏雛の顔がはがれています。そこで修復を依頼します。

 依頼先は、京都の職人さん。「治せないものはありません」。修復歴数十年の腕前です。まずははがれかかっている顔の部分をていねいにはがします。その後、顔料なのか染料なのかわかりませんが、白い液体を塗っては乾かし、塗っては乾かしして、重ね塗りをしていきます。そして、顔を描きます。筆を入れ、眉、目、口が出来上がります。

 「気をつけていることはありますか」の問いに、職人さんが答えます。

 「自分を出さないことです」

 職人さんの仕事は修復することであり、そこに自分を出すと自分の思いや美意識、価値観などが出て、「こうしたらもっと素晴らしいものになる」とか「前よりもいいものになる」というようなことが起こるのでしょう。元あったものに忠実に仕上げていく。そこが職人さんの職人たるところなんだろうな、と思いました。

 修復するわけではありませんが、ファシリテーターもそこから学ぶことがあるように思います。ファシリテーターも人の子で、「こうしたらいいのに」、とか「この人にとって良かれと思って」といった気もちが起こります。言うべきか、言わないべきか、言うとしてどんなふうに言うか、そのことばのその人への、そして他の人やグループへの影響はどうか、など頭の中をぐるぐる回ります。

修復ということばがここでは適切ではないかもしれませんが、もし修復する、修正するとするならば、その人本人の思いと意志で修めていく。「自分を出さない」というより、「自分の思いや美意識、価値観などを押しつけない」。そんな職人さんになりたいです。