島岡強さんのこと

5月の出来事で一番残っていることは、やはり島岡強さんの講演です。
8日に行われた南山大学人間関係研究センター主催の公開講演会です。以前、このブログでも書きましたが、その時はテレビで観た島岡さんが強く印象に残っていました。まさかその島岡さんの奥様である由美子さんがボスの奥様のお知り合いだったのは知りませんでした。そのつながりからでしょうか、今回の講演者が島岡さんになったと知ったときには、ぜひ直に声を聞きたいという思いが高まりました。
講演料を払うというなら講演はしない、そのかわり言いたいことを言わせてもらう、ということから始まった講演は、随所に島岡さんの生きる上での考え、個性、価値観が現れていました。
由美子さんが書かれた「我が志アフリカにあり」にも書かれていますが、島岡さんのお父様も一義な人で、島岡さんが小学生のころ自分の自転車が盗まれ、ふてくされて帰ってくると親父にビンタをくらった、「自転車を買えない人が持っていったんだから、『どうもありがとう、どうぞ自転車を持っていってください』という気もちのなるのが本物の人間だ。お前みたいに盗まれたと騒ぐなんて乞食野郎のすることだ」。透明のガラスの貯金箱にお金をためているのを父親に見つけられると、父親は烈火のごとく怒り、息子を張り飛ばし、ガラスの貯金箱を床にたたきつけ、「金を貯めようなんておまえはなんて情けない根性をしているんだ。金は自分の為にあるものじゃない。天下万民のためのものだ」。
その父親が島岡さんにしめした教訓が5つ。「定職につくな」、「日本で仕事をするな」、「免許や資格をとるな」、「物を所有するな」、「結婚はするな」。
由美子さんとご結婚されたのでそのひとつは破られましたが、それ以外は今でも守られているそうです。アフリカ・タンザニア国ザンジバル島にある家は公営住宅で賃貸ですし、現在6隻ある漁船もすべて地元の人の名義です。漁業、運送業、タンザニア国内で加工製造したインスタントコーヒーの輸出業などで数百人の雇用を生み出し、アフリカ人の経済的自立に資するとともに、柔道師範として精神性も育んでおられます。
島岡さんがアフリカという大地に立ち、アフリカの人たちに受け入れられ、信頼され、尊敬される存在になるには、相応の時間がかかったと思いますし、島岡さんご自身が日本とは違う文化や生活環境や道徳観などのなかで根をはっていくには相当の気もちの揺れもあっただろうと思います。
否、それはなかったかもしれない。島岡さんが常に心底に置いている「志」が堅牢なものである限り、それ以外の瑣末なことは意識にも上がらないのかもしれません。
“Change Agent−社会変革者”などと私などは軽々しくことばにすることがあります。ことばの軽さを感じます。自分自身にその覚悟があるのか。どんな覚悟をもっているのか。
常に内省し、自問し、行動に現すことが求められているように感じられる島岡さんとの出会いです。