歯にしみとほる
たばこをやめたのは、25歳のときです。一日1箱、酒でも飲んだ日には2箱は吸っていたヘビースモーカーでしたから、やめた当初は道行く人の吐く煙までも吸いたくなる衝動に駆られました。今は半径3メートルの範囲でたばこのにおいを感知しようものなら、口を手で覆うほどのいやみったらしです。
酒を納めて2週間ほど経ちます。こちらのほうは人がどれだけ飲もうが気になることはありません。
白玉の歯にしみとほる秋の夜の 酒は静かに飲むべかりけり
ご存知、若山牧水の歌です。牧水は無類の酒好きで、多くの人と酌み交わすのも好きだったようですが、こと秋の夜だったからか、たまたま秋の夜だったのかはわかりませが、ひとり静かに飲むこともまた愛したのでしょう。
勢いを酒に任せ、預けていたような気がします。歯にしみとほるような興趣を感じられるようになったら、そのときは静かに染まりたいと思います。