Tグループとは No.052 グループプロセスのダイナミックス:コミュニケーションの機能としてのリーダーシップ

 集合体から集合(グループ)に移行するためには、社会的相互作用(コミュニケーション)が起こることが大切であることをNo.051で書きました。グループの中におけるプロセスをとらえる視点としては、集団のメンバーのコミュニケーション(社会的相互作用)がまずは、重要であると言えるでしょう。コミュニケーションを起点にグループプロセスの話をしたいと思います。

 Reddy(1994)は、「インターベンション・スキルズ(2018,津村監訳)」の著作で、グループプロセスのダイナミックスを5つの層からなる氷山図で示しています。レベルⅠは「コンテント(なすべく仕事)」、レベルⅡは「目に見えるグループの問題(相互作用)」、レベルⅢは「目に見えない核となるグループの問題(欲求、動機、情動など)」、レベルⅣは「価値・信念・前提」、レベルⅤは「無意識」の層として記しています。
 特に、レベルⅠとレベルⅡは、海に浮かぶ氷山図の見えている部分です。レベルⅡの層の主たる活動が、社会的相互作用であり、それはコミュニケーションであると言えます。

 古い研究ですが、Bales(1950)は、小集団の相互作用の過程を系統的に記録、分析する方法を開発し、組織的観察を試みました。様々な相互作用のありようを分析して、その結果、社会的・情緒的領域(肯定的反応・否定的反応)と課題領域(応答・質問)の2領域を見出しています。社会的・情緒的領域の肯定的反応とは、「連帯性を示す」[緊張解消を示す」「同意する」といった反応であり、否定的反応とは、「不同意を示す」「緊張を示す」「敵意を示す」といった反応です。また、課題領域における応答とは、「示唆を与える」「意見を述べる」「方向づけを与える」であり、質問とは「方向づけを求める」「意見を求める」「示唆を求める」が含まれています。

 コミュニケーションによる相互作用の働きを、Balesの研究に従うと、グループの課題達成に影響を与えるコミュニケーションとメンバー間の社会的・情緒的関係性に影響を与えるコミュニケーションが考えられます。このことは、リーダーシップの機能と関連しており、課題を達成するために必要な働きをするコミュニケーションと、メンバー間の関係性に影響を与えるコミュニケーションの2種類が存在していると考えることができます。

 リーダー研究、リーダーシップ研究の歴史から見て、この2つのコミュニケーションの働きは、2大リーダーシップ機能であると言えます。Katzら(1950)による研究では、課題中心的リーダーシップと従業員中心的リーダーシップという用語を使っており、三隅(1966,1984など)は、集団の目標達成機能(performance機能)と集団維持機能(maintenance機能)という言葉を使って、PM理論によるリーダーシップ研究を行っています。

 以上のアイデアを活用して、Reddy(1992)らの氷山図のアイデアを重ねていいくと、図のようなグループプロセス氷山図(その1)が考えられます。
 レベルⅢの「目に見えない核となるグループの問題(欲求、動機、情動など)」から生まれる、グループのメンバーに見えるコミュニケーション(レベルⅡ)が、レベルⅠ「コンテント(なすべく仕事)」を達成するために働きかける課題達成のリーダーシップの機能としては会話が1つの領域です。一方、グループのメンバーに見えるコミュニケーション(レベルⅡ)が、レベルⅢの「目に見えない核となるグループの問題(欲求、動機、情動など)」に影響を与えられる集団維持のリーダーシップ機能を果たす会話の領域があることを示しています。

 そのほかに、個人のニーズ(欲求)だけで発する言葉があるかもしれません。グループの文脈とは関係なく、メンバーのただ欲求だけで発話するようなコミュニケーション、これをコミュニケーションと呼ぶかどうかは検討を要しますが、確かに個人のニーズ、いわば自己中心的な発話も起こるでしょう。

 Tグループが日本に入ってきた中で、グループへのメンバーの影響の与える指向性(オリエンテーション)として、TPIリーダーシップという言葉も使われていました。TとはTaskオリエンテーション、PとはPersonオリエンテーション、そしてIとはIndividual Needsによるオリエンテーションとして、グループ内の行動が表現されています。(つづく)