Tグループとは No.051 グループプロセスのダイナミックス:集合体から集団(グループ)へ

 私たちは、日常生活の多くを家庭、学校、職場、遊び仲間など、さまざまな集団のなかで過ごしています。集団とは複数の個体の集合をさしますが、心理学においては、共通の目標をもって相互作用を行い影響を及ぼし合っていることなどを集団成立の要件としています。

 エレベーターにたまたま乗り合わせた人々は単なる人の集まり(集合体)であり、心理学的には集団とは呼ばないのです。
 大橋(1979)は、レヴィンの考えをもとに、心理学的な意味で集団といえるための要件として、次の5つをあげています。
 ①共通の目標と相互依存性の認知
 ②成員間には社会的相互作用が存在すること
 ③成員間に一定の関係が存在すること
 ④集団規範が発生すること
 ⑤成員間に一体感が存在すること

 エレベーターの中でたまたま居合わせた人々は集合体ですが、もしエレベーターが故障をして緊急停止をしたとします。その状態で、そこに居合わせた人々がこの事態でどのように脱出すればよいかといったアイデアを話し合ったり、事態の恐怖や恐れから来る不安を低減するようにメンバー間の働きかけが起こったりするでしょう。そのような状況が生まれてくると、単なる人々の集合体が集団に変化していく過程をたどることになります。

 そのような集団の過程を考えると、上記の5つの要件の中で、つんつんは「②成員間には社会的相互作用が存在すること」が、集合体が集団として機能し始めるために大切な要件になるのではないかと考えています。Tグループでも、あらかじめラボラトリーにおけるねらいが伝えられたり、参加者個人のねらいを立てたりもしますが、たまたまのグループのメンバーが決められ、Tグループのセッションが始まった時には、Tグループのメンバーにとって共通・共有のねらいが明確にあるわけではありません。

 たまたま1つのグループに集まったメンバーが話し始める(社会的相互作用)ことからグループはスタートします。何層にもわたるコミュニケーション(社会的相互作用)を重ねながら、グループの中で①共通の目標が明確になったり、相互に影響を与え合っている感覚(相互依存性)を認知するようになると考えられます。さらにコミュニケーション(社会的相互作用)が続くと、お互いの関係の中に特定の役割や働きを感じる③成員間に一定の関係の存在が認知できるようになります。

 また、その社会的相互作用を通して、共通の行動様式や思考の仕方が生まれて、それが④集団規範(暗黙の内にルールになったり、お互いの言葉によるやりとりを通して生まれるルールであったり)として発生し、成立していくのです。その規範は、小集団の活動に有効なものもあれば、新しい行動や思考することを抑制的に働くものもあり、クリエイティヴィティさ(創造的になること)や新しい行動を学習する(チャレンジすること)ことなどへのリスキーさをグループのメンバーに損なわせることが起こるのです。グループのプロセスを観る時には、どのような規範がグループの中で働いているかを気づくことはとても大切です。

 グループの中で生まれる幾多の課題をグループのメンバーが共に乗り越えながら、グループの共有された目標を達成することを通して、⑤成員間に一体感を感じることができるグループに育っていくと考えられます。これまでの「グループは変化する、No.41〜49」において、さまざまな研究者や実践家が提唱するグループの発達モデルを紹介してきました。

 この後、No.52より、グループプロセスのダイナミックスの氷山図を提示しながら、グループプロセスのダイナミックスをどのように理解すればよいか、そしてそのグループプロセスのダイナミックスへの働きかける介入について、代表的な研究者・実践者の話を交えながら、どのような視点があるかを考えていきたいと思います(つづく)。