Tグループとは No.053 グループプロセスのダイナミックス:2つの集団機能と個人のニーズから生まれる問題行動

 E.シャイン(1982)は、グループの中におけるメンバーの行動は何らかの機能をもっていると考え、集団の機能的な側面として、それらの行動を課題行動(タスク)と集団の形成・維持行動(メインテナンス)の2つのリーダーシップ行動としてとらえています。

 A.課題達成の機能
 課題達成を促進する行動として、6つの機能レパートリーを挙げています。
① 率先着手(Initiating)の行動
② 情報・意見の探索(Seeking Information or Opinions)の行動
③ 情報・意見の提供(Giving Information or Opinions)の行動
④ 明確化と精徹化(Clarifying and Elaborating)の行動
⑤ 要約(Summarizing)の行動
⑥ 合意の吟味(Consensus Testing)行動

 B.集団の形成・維持の機能
 集団の形成・維持の機能は、とても重要であり、グループ内のメンバー一人ひとりの欲求が満たされたり、対人関係が健全に機能しないと、より高いレベルでグループのパフォーマンスを発揮することができないと考えられます。集団がより高いパフォーマンスを上げていくためには、メンバーはよりよい関係を作りあげ、維持していく行動が大切になるのです。また、グループの課題は、メンバー間の関係が損なわれる前に、その問題が起こる前にすなわちできるだけ初期に最小限に食い止めることができるように働きかけることが大切になるともScheinは述べています。
 Scheinは、集団の形成・維持を促進する行動として、5つの機能の行動をあげています。
① 調和(Harmonizing)の行動
② 妥協(Compromising)の行動
③ ゲートキーピング(GateKeeping)行動
④ 奨励(Encouraging)行動
⑤ 基準の設定と吟味(Standard Setting and Testing)行動

 上記の2つの集団の機能とは異なる視点として「情動問題の視点」をScheinは取り上げ、もっと複雑な情動レベルのプロセスがあることを指摘しています。
 情動の基本的な問題として、4つの領域があげられています。
① アイデンティティ(Identity):「私はこのグループの何なのか? 一員なのか?」、「このグループではどんな行動が受け入れられているのか?」といった問いに代表されるような、自分がこのグループメンバーの一員としてどの程度同一視できているかという情動です。
② 目標と欲求(Goals and Needs):「このグループから私は何を得たいのか?」、「グループの目標は自分の目標と一致しているのか?」といった自分の目標やニーズが、どの程度グループの目標と一致しているかという懸念にねざす情動領域の問題です。
③ パワー、コントロールと影響力(Power, Control and Influence):「誰が私たちのやっていることを支配(コントロール) しているのか?」、「私はどれくらい影響を与えているのか?」といった自分の影響力やお互いの影響関係にかかわる懸念に関する問題領域の情動です。
④ 親密さ(Intimacy):「私たちはどれくらい親密であるか?」、「お互いにどれほど信頼し合っているのか?」といった相互信頼の懸念にかかわる情動の問題領域です。

 個人の社会的なニーズが満たされない状況や、過度な不安が高くなると問題行動として現れることがあります。
① 依存一反依存(Dependency – Counter-dependency):これは、グループ内の
権威者に対する反対や抵抗を示す行動です。時には、ファシリテーターやコンサルタントに たくさんのことを求める依存行動が見られたり、時には、ファシリテーターは何もしてくれないと強い反発行動を示したりすることが起こります。
② 闘争と統制(Fighting and Controlling):自分の支配力の主張や他者にはおかまいなしに自分のやり方で試みるといった一方的な行動を示すことが起こります。
③ 引っ込み(Withdrawing):心理的にグループから離れることによって不快な感情の源泉(resources)から逃れる反応をとる行動が起こるかも知れません。グループの中で、発言をしなくなったり、できるかぎりグループの中で目立たないようにしようとしたりする行動をとるようになるかもしれません。
④ ベアリング(Pairing Up):グループの中で、自分をサポートしてくれる1人か2人のメンバーを探そうとする行動が生まれることがあります。結果として、メンバー相互に守り合ったり、支持し合ったりするサブグループを形成することが起こることがあります。

 こうした行動は、問題行動として集団の中で扱われやすいのですが、その行動には、当該のメンバーのもつ社会的ニーズが満たされないという状況が起こっているのであり、実はその行動には意図、願い、期待、希望、価値観を当該のメンバーは抱えているのです。氷山図に示されているように、表に出てくる行動の裏には、気持ちだけではなく、意図や願い、さらには価値観まで潜んでいると考えておくことはとても大切になると思います。

 Tグループでは、そうした突出した行動を起こしたメンバーの個人の問題として取り上げデスカッションのテーマにするのではなく、そのことが起こったグループの状況をグループのメンバーと共に点検したり、その当該メンバーがもつ意図や願いを丁寧に聴き合うグループになることが大切であると考えています。

 ファシリテーターやコンサルタント、教育者は、彼/彼女の表に現れた行動を指摘し修正を求めるのではなく、対話を通して彼/彼女のめざしたい集団/組織/社会を明確にし、その未来に向けて取り組むたために何ができるかを吟味する働きかけを必要としていると考えています。その技能の修得が、Tグループで可能になるのではないでしょうか。

 AI(Appreciative Inquiry)アプローチが示すリーダーシップの中では、とんがったメンバーやシニカルに発言するメンバーの言動に関しても、またナラティヴ・セラピーの一人ひとりの問題として抱える行動への関わりにおいても、当該のメンバーの思い、意図、願い、期待などが必ずあることを前提に問いかけをします。こうした突出した個人の行動を集団のメンバーと共に探求して集団の中で生きていく力を身につけることができるように支援することが、これからのリーダーには求められているのではないかと考えています。

 K.レヴィンも古い著作の中でも、集団の中で生きている中で、人間の行動は「定理から外れた例外や法定外という考えはない」と考えているようです。(つづく)