Tグループとは No.041 グループは変化する:Lewin(1951)の変化モデルとは

Lewin(1951)は、場の理論(field theory)を提唱して、ある場のある時の個人の行動を規定する事実の総体を生活空間(life space)とよび、その個人がどのような行動をとるかは、その人のパーソナリティなどの要因(個人要因)とその行動の場である生活空間(環境要因)との関係で生まれると考えたのです。それを、B=f(P・E)という関数で示しました。

 その行動は、現状維持として特定の状態で静止的になっているのではなく、その行動を変化するように促進する推進力と押し留めようとする抑止力の相反する諸力が、バランスを保っている状態にあると考えています。その状態を、彼は準定常的平衡(Quasitationary Equilibrium)とよんでいます。

 彼は、個人や集団が成長や変革を試みようとする過程を分析する中で、変化が意図的に生じさせたとしても、その変化は元の状態に戻りやすく、変化や変革が起こった時に何らかの安定した新しい水準のもとで持続するように計画しなければならないと考えています。

 彼によると、個人がグループの中で体験し何らかの変化が起こそうとする際、グルーが変化する過程において「溶解作用(unfreezing)」、「移行もしくは移動(moving)」、「再凍結作用(refreezing)」の3つのステップが必要であると述べています(図参照)。

 グループ体験の中で自分がこのままではよくないかもしれないと少し疑問をもち【溶解作用(unfreezing)】、推進力を強めたり抑止力を弱めたりする行動【移行もしくは移動(moving)】を起こし、新しい行動を定着させるためにグループのメンバーからフィードバックをもらったり新しい自分のありようを肯定したりする働き【再凍結(refreezing)】が必要であると考えています。

 例えば、人間関係トレーニングのグループの中で、初期の頃は、ほとんどの参加者は長年身につけてきた安定した行動スタイルによってグループやメンバーにかかわろうとします。たとえば、ある参加者はリーダーはいかに行動すべきであるかとか、グループはいかに動くべきであるかといった、これまでに学習してきている経験知に基づいて行動をします。グループの初期には、あるメンバーは「話題や司会者を決めて討議をしましょう」と提案したり、グループのたどり着くべき目標を設定しようとしたりします。

 しかし、その行動が他のメンバーに支持されなかったり、反応が乏しかったりすると、彼/彼女は自分の行動に疑問を感じたり、グループの今の状況を吟味したりして、自分のかかわり方や考え方に対して不安を感じ始めます。そこで、彼/彼女は“今ここ”で自分は何をしたいのか、また今のグループ状況の中で何が適切な行動なのかなどを考えはじめます。そして、これまでの行動スタイルとは異なった新しい行動を試みる必要を感じ、変革への欲求が高まってきます(溶解作用)。彼/彼女は、自分自身を開示したり、自分から提案や主張するのではなく、メンバーの話に耳を傾けるなど新しい行動に挑戦してみたりして、他者へのかかわりを試みようとします (移行)。その結果、彼/彼女が試みた新しい行動のいくつ かはグループのメンバーから承認を得たり、サポーティヴなフィードバックをもらって強化されたりして、新しい行動が自分自身のレパートリーの一部に取り込まれることになる(再凍結作用)と考えられます。

 グループが継続する限り、新しい問題に直面しながら、上述のプロセスは繰り返され、新しい行動がより安定したものになったり、さらに自分の行動の変化や修正を行うことが生まれてくるのです。

 Lewinの場の理論によるこれらの変化モデルは、力動的なモデルであり、人間関係トレーニングのグループの変化や個人の変化を理解するための有益な準拠枠(framework) となっています。

 ただ一点、記しておかなければならないことがあります。Tグループの原理を利用して、自己啓発セミナーやマインドコントロールを意図した研修が横行する時代がありました。今もなお、続いているセミナーもあるかも知れません。

 あるセミナーにやってきたら、自分が持っている所有物をすべて預けて(時計など身につけているものを取り上げられて)、暗い部屋に閉じ込められ、ネガティヴなフィードバックが浴びせられ、参加者は追い詰められていくことになるのです。

 そのセミナーでは、主催者によて人為的に【溶解作用(unfreezing)】を引き起こされるわけです。自分が何を大事に生きてきたのか、何のために生きているのか、大きな動揺が起こるわけです。そして、これまでのすべてを捨て去り、新しく生きる方向や考えが目の前に現れ(提示され)、また時として部屋があかるくなり、明るい音楽も流れ新しい世界へ心を動かすように導かれるのです【移行もしくは移動(moving)】。

 その直後、そうした自分へのポジティヴなフィードバックが参加者相互に与え合ったり、主催者から与えられたり、時として紹介した知人が花束をもって登場して最高の状態を演出する仕組みでセミナーが行われていたセミナーがあったようです【再凍結(refreezing)】。さらには、次にセミナーを紹介するほど成果があることが強調されて、参加者は勧誘に取り組むことになるのです。

 体験から学ぶ環境づくりは、その主催者のありようがプログラムのデザインや実行に反映しています。かなり意識をして、プログラムのデザインや働きかけ(介入)をかなり意識して吟味し、実践することをしていく必要があります。そのためにも、参加者の声、プロセス(気持ちや考え、行動)に感受性豊かに関わる力が必要になると考えています。

 また、こうした記事を書くことは、多くの人に「体験から学ぶこと」「体験から学ぶことを支援すること」を考えていただければ幸いと思い、取り組んでいる次第です。(つづく)