Tグループとは No.040 体験からの学びを促進する問いかけとは?

 参加者が体験から学ぶためには、単に何か知識を一方的に提供するだけでも成り立たないし、また学習者が何か体験をするだけでも学習は成り立たないのです。参加者が学ぼうとするねらいは何かといったことを明確にしながら、参加者の学習目標に適切な体験を準備し、その体験から学びを深めるための体験から学びを深めるステップでの支援が必要になります。

 その働きをする人を、“ファシリテーター(facilitator)”とよびます。体験学習のファシリテーターは、何かを教えるという人ではなく、学習者が体験学習のステップを循環し学ぶことができるように体験を準備し、学習者に働きかけをすることが大きな仕事になります。

 体験学習の循環過程のステップを順に踏むことができるようなファシリテーターの働き方について、ガウ(Gaw,1979、津村訳,1996)によって記述された体験学習の循環過程を促進するための問いかけを紹介します。
 体験学習のステップの循環を促進するファシリテーターの仕事に6つの働きをあげることができます(津村,2010)。

 ①気づき(awareness)の促進:体験したことからさまざまな気づきを意識化することを促進する
 問いかけ例:あなたは何をしましたか?何をしなかったですか?今の活動の中でどんな気持ちや考えが生まれていましたか?など
 ②わかちあい(sharing)の促進:実習や活動で気づいたことをお互いに伝え合うことを促進する
 問いかけ例:自分の気づいたことを今伝えられる範囲で教えてもらえますか?など
 ③解釈すること(interpreting)の促進:個人やグループが気づいたことの意味を明らかにすることを促進する
 問いかけ例:あなたにとってそれはどのような意味がありますか?なぜそのようなことをしたのでしょうか?など
 ④一般化すること(generalizing)の促進:気づきの解釈を試みたことから抽象的な概念化に発展させることを促進する
 問いかけ例:どのような原理や法則が働いていると思いますか?そのことからあなたは何を学びましたか?など
 ⑤応用すること(applying)の促進:概念化したことを新しい状況の中で検証するための仮説や自分やグループの変化・成長のための行動目標を考えることを促進する
 問いかけ例:どんな場面でどんなことを試みてみますか?あなたの課題や行動目標にはどのようなことが考えられますか?など
 ⑥実行すること(acting)の促進:仮説化したことを実際に試みてみる場をつくったり、実行したりすることができるように促進する
 問いかけ例:あなたの課題を実行することでどのような結果が得られますか?あなたの課題を実行するために必要なことは何ですか?など

 ファシリテーターとして留意すべきことは数多くありますが、もっとも基本的な姿勢として、体験から気づき、学ぶ人は学習者自身であるということを忘れてはならないということです。

 時として、親切心、教育者心から,ファシリテーターが気づいていることや解釈したことを学習者に伝えたくなる、教えてあげたくなることがあります。

 ファシリテーターからフィードバックするときには、そのフィードバックの授受がもつ功罪についてよく吟味した上で行う必要があります。たとえ重要なフィードバックとファシリテーターが考えた場合でも、ともすれば、他者から教えられたことは、学習者自身が発見した学びとは異なり、いわゆる学びの所有者感覚(ownership)をもてずに、逆に、そのことに気づくことができなかったという屈辱感を学習者に味わわせることになるということも知っておく必要があります。

 上記の6つの働きは、学習者自身がく気づく>、<わかちあう>、<解釈する>、<一般化する>、<応用する>、<実行する>のです。体験学習の場面では、問いかけをすることによる支援はファシリテーターによってなされることが多いかも知れませんが、最終的には学習者自身が体験学習の循環過程を意識して学ぶことができるようになることです。

 それに向けていかに促進することができるかが、ファシリテーターの仕事であることを肝に銘じておきたいものです。そのためにも、ラボラトリー方式の体験学習を実施している現場においてファシリテーター自身が体験学習の循環過程を生かして、自らの教育現場での体験から問いかけのレパートリーを増やしていくことが大切になると考えています。(つづく)