Tグループとは No.039 Tグループのトレーナーは何をするのか?

 「トレーナーは何をするのか?」このお話を書くだけでも相当の紙数を要するだろうと思います。総論的になりますが、一度書いておきたいと思います。

 いかなるグループも、なんらかの目的をもって運営されているわけです。そのグループの目的を達成するために、グループメンバーやグループに対してリーダーが働きかける行為を介入(intervention) とよびます。

 Tグループでは、グループの運営を主催する人をトレーナーと呼称し、古くから使われてきています。Tグループ=Human Interaction Laboratory=人間関係のトレーニングという用語からトレーナーという言葉が使われてきているのです。近年では、Tグループ・ファシリテーターという名称も使われるようになってきています。

 マイルズ(Miles,1980)は、トレーナーの責任は、学習を促進することにあると記しています。トレーニンググループが停滞したり、無関心になったり、闘争的になったりしたときに、トレーナーの仕事はそのグループがこの混乱から抜け出すことを容易にするように援助する(ファシリテートする)ことではないと明言しています。トレーナーの仕事はそのような働きではなくて、その混乱から学ぶことを支援することができるかどうかであると述べています。

 ファシリテートという言葉から想像すると、ファシリテーターは何かやさしくて、混乱からグループのメンバーを抜け出すように助け、グループが動きやすくすることが仕事であると思われがちです。そのようにファシリテートすることをファシリテーション、その働きをする人をファシリテーターと読んでいる方もみえるかと思います。

 しかしながら、グループ体験から学ぶことを大切にするTグループファシリテーターは単にその困難から抜け出すことを支援することが目的ではないのです。言葉を換えると、学ぼうとしているメンバーの邪魔をしないこととも言えるでしょう。このことが、ラボラトリー方式の体験学習、すなわちプロセスから学ぶことを支援するファシリテーションの大切な視点の1つであるといえます。

 以上のことを踏まえると、トレーナーの仕事とは、グループの中で“今ここ”でぶつかっていることに目を向けて、“今ここ”での体験から学ぶことをしっかりと支援していくことなのです。その学びは、グループが発達していくときに乗り越える課題は何かといったグループの成長に向けて取り組む課題を見つけ出すことを共に学ぶかも知れないし、その葛藤の中でメンバー一人ひとりがどのようにいるのか、自分自身のありようを学ぶかも知れないのです。

 Tグループの中では、トレーナーの基本的な姿勢として、グループメンバーが学習するために“今ここ”での体験に対峙し、メンバー一人ひとりの関心事を大切にし、内省する場を創り出す支援をどのようにできるかといったことが大切になります。その前提として、グループメンバーが何を学ぼうとしているか,学習目標を明確にする働きかけも重要になります。

 プロセスへの気づきに光を当てる視点をもつために、また内省し分析し洞察を深めていく ためにも、メンバー一人ひとりの学習目標を明確にしながらファシリテーターはかかわっていく必要があります。ラボラトリー方式の体験学習のファシリテーターは、メンバーの気づきや学びをさらに概念化し、新しい行動に結びつけていくような知識やスキルも求められているのです。

 つんつんが今考えている、Tグループにおいて参加者と共に学ぶトレーナー、もしくはファシリテーターのありようや介入の留意点を挙げておきます。

①心理的に安全なグループ風土づくりに取り組むこと。
②個人やグループの現状を受容する共感的態度をもつこと。
③メンバーの話を傾聴する態度をもつこと。
④個人やグループの見える部分(行動レベル)と見えない部分(気持ちや考えていることなど)のいずれに対しても感受性をもつこと。
⑤“今ここ(here and now)”で起こっていることを大切にすること。
⑥言語的レベル、非言語的レベルでメンバー間の交流を促進すること。
⑦グループや個人に対して感じていることを、リーダーも含め、メンバー間相互に対峙したり開示したりフィードバックしたりすることを促進すること。
⑧メンバーの自発性や自主性を尊重すること。
⑨トレーナー自身が自分と向き合い正直で誠実であること。
⑩グループの成長的潜在力に対して信頼をもつこと。
があげられると考えています。(つづく)