Tグループとは No.072 誕生から75年さらなる発展のためのパラダイムシフトに向けて:クーパーライダーら(1994)によるアプリシエティヴ・インクワイアリ・アプローチ(Appreciative Inquiry Approach)(6)アプリシエイティヴ・リーダーシップ

 1980年、AIアプローチの始まりは、クーパーライダーらによる、クリーブランドクリニックの従来型の診断と組織分析を行い、「組織の人間的側面の何が問題になっているのか?」を、クリニックのスタッフからデータを収集し分析することでした。その際、彼は組織における積極的(ポジティヴ)な協力、革新、平等主義的ガバナンスのレベルの高さに驚いたのです。シュバイツァーによる「生命への畏敬(reverence for life)」に影響を以前に受けたクーパーライダーは、クリニックの非常に効果的な機能に寄与する要因の分析に全面的に集中したのでした。

 1982年、K.ガーゲンは著作を出版し、とりわけ彼の「生成理論(generative theory)」が、AIによる組織分析の基礎を得たクーパーライダーに大きな影響を与えたようです。それ以降、さまざまな組織にAIの考え方を導入し、その成果が報告されていきます。

 1984年に、クーパーライダーは、「アプリシエイティヴ・インクワイアリ(AI):組織のイノベーションを理解し強化するための方法論に向けて」と題した博士論文を完成させました。 生成理論の発展の研究として始まったものが、組織変革の戦略へと進化しました。 このパラダイムシフト作業は、トピックの選択、発見、触発的(喚起的)声明文(provocative propositions)の開発などを説明し、欠点や問題に焦点をあてることを超える必要性を主張する社会構成主義メタ理論を提供していったのです。

 4Dサイクルの言葉は、クーパーライダーらが1990年にルーマニアの医療システムと連携し、AIの実践とAIを記述するモデルとして生まれたようです。このモデルでは、AIのサイクルを「発見(Discovery)、夢(Dream)、そして運命(Destiny)」と表現したようです。それが発展して、今では【発見する(DISCOVERY)】⇒【理想の未来を描く(DREAM)】⇒【デザインする(DESIGN)】⇒【宿命づける・持続する(DESTINY/DELIVER)】というステップとして記述されるようになってきています。

 このような図式が示されると、どうしてもこのステップを踏むことがAIアプローチだという誤解を招くおそれが起こります。そうした中で、AIの哲学をもった人材の育成として、ダイアナ・ホイットニーら(市瀬博基訳)の「アプリシエイティヴ・リーダーシップ」の考え方は、人やチームを育てることを支援する人たちにはとても大きな可能性を与えてくれています。

 アプリシエイティヴ・リーダーシップとは「人と人との関わり合いから生まれる力であり、潜在的な想像力を目覚めさせ、ポジティブなパワーに変える。すなわち自信や活力、情熱や行動のあり方にポジティヴなさざ波を引き起こし、より良い方向をめざした現実の変化を生みだす。」と記されています。

 ケネス・ガーゲン著書「関係の中の存在(Relational Being)」の記述を引用して、「個人が発揮する」リーダーシップから「関係性を介して発揮する」リーダーシップへの転換の必要性が強調されています。そのことは、「よいリーダーに求められる特質のどれ一つとして個人の内部で完結することはできない」と考える社会構成主義の考えがベースになっているのです。

 アプリシエイティヴ・リーダーは、すべての人にポジティヴ・コア(潜在力の源泉)が備わっていると考えています。ポジティヴ・コアとは、人の善意やポジティヴな潜在力の源泉であり、見いだされ、価値を認められ、具体化されることで現実の力となると考えています。したがって、アプリシエイティヴ・リーダーシップは、人や状況の潜在性を探り出し、これをポジティヴな力に変えようとするのです。このことからも、いわゆる4Dを実践することだけがAIの考え方ではないと理解した方がよいと考えています。

 人との関わり合いの中で自分をふりかえり、探求し、対話を交わすことによって、これを実現するのです。潜在力は、人と人との語らいの中で、明確化されない限り、現実のものとなり得ないと考えています。すなわち、語り合い、明確な言葉にすることで、最終的には行動という形に現実化されるといった社会構成主義の考え方が生かされています。

 アプリシエイティヴなリーダーシップの5つの思考法として、彼らは、以下の5つをあげています。
①インクワイアリー(強み発掘思考):ポジティブな視点から質問を投げかける
②イルミネーション:(価値「見える化」思考):人や状況に秘められた最大限の力を明らかにする
③インクルージョン(つながり拡大思考):人を巻き込み、未来を共に創る
④インスパイア(ワクワク創造思考):クリエイティブな心を呼びさます
⑤インテグリティ(みんなの利益思考):全体の利益を考えて意思決定をする

 詳細は、ダイアナ・ホイットニー他(著)「なぜ、あのリーダーの職場は明るいのか?:ポジティブ・パワーを引き出す5つの思考法」市瀬博基(訳)(日本経済新聞出版社,2012)をお読みください。(つづく)