Tグループとは No.084 トレーナー(支援者)のトレーニングで必要なこと:トレーナーやコンサルタントのORJIモデル

 チームづくりや組織づくりは、私は「人と人とのつながりを創る」ことだと思っています。これまでの私の仕事はきっと「人と人とのつながりを創る」ことを通して、一人の人の存在意義や価値を大切にしながらお互いにかかわれる、仕事ができる関係が生まれることであり、そうした関係が生まれる場づくりと、結果として信頼し合えるチームづくりや組織づくりを大切にしたいと考えて教育活動に取り組んできました。

 そうした「人と人とのつながりを創る」仕事をする人を、教育者と呼んだり、コンサルタントと呼んだり、トレーナーと呼んだり、カウンセラーと呼んだりしているのだろうと思います。広くは支援者と言えるでしょう。その支援者が、「人と人とのつながりを創る」プロセスに目の前の人たちが主体的・自発的に参加するためには、理論と技能(実践力)とが必要になります。

 その実践力を上げていくためには、「ラボラトリー方式の体験学習の循環過程」がとても役に立つだろうと考えています。その学びの過程に、これまで語ってきた理論やモデルを応用しながら学んでいくとよいのだろうと思います。特に、循環過程のステップの中でも「仮説化」のステップで、具体的に目の前の人にどのような言葉を投げかけるのか?どのような問いかけをするのか?選択肢を具体的に考えて、レパートリーを拡げることがとても重要だと考えています。

 ラボラトリー体験学習を生かしながら、支援者の選択肢を考えるヒントの一つに、ScheinのORJIモデルを紹介させていただきます。

 Schein (1999稲葉・尾川訳, 2012)は、私たちのコンサルタントやトレーナーの行動メカニズムとして、ORJIモデルを提唱しています。私たちの日常の行動は、目の前で起こる出来事を観察し(Observation:O)、観察した状況から情動的な反応が生起し(Reaction)、観察と感情に基づいて分析・処理し判断を下し(Judgement:J)、そしてその状況に働きかけるための行動(Intervention: I)が生まれると彼は考えています。このモデルにおける行動は、コンサルタントやファシリテーターにとっては、他者やグループへの介入(働きかけ)(Intervention)をする行為として取り上げられます。

 Schein(1999稲葉・尾川 訳,2012)は、このモデルのこれら4つの要素の循環型モデルを、図のように示しています。この循環型のモデルを活用することで、ファシリテーターが、いかに適切に介入(働きかけ)をしているか、またファシリテーターの働きかけの可能性(選択肢)を検討することができると考えられます。

 1.観察(Observation:O)
 適切な行動をとるためには、環境の中で現実に生起している事柄を、全感覚を通して極力正確にキャッチすることが必要です。しかし、私たちは以前の経験に影響を受けて、「期待」や「予想」をしながら見たり聞いたりしています。コンサルタントやファシリテーターに入ってくる情報が期待や先入観、予想と一致しなければ、情報を締め出したり、歪めたりして、かなり選択的に物事を見てしまう可能性があります。

 私たちは、自分が見ることだけから考えたり話したりするのではなく、考えたり話したりできることを見ているとScheinは述べています。いかに自らが無知であるかといった前提に立ち、プロセスをとらえることができるかが大切になります。そのためには、自分が見たことや考えたことを対象の人々と語りながら、今考えたり感じたりしていることを共有することが大切になります。

 2.情動的反応(Reaction:R)
 私たちは、自分の中で起こる情動的な反応について知ることが難しいと言われます。それは、情動的な反応、特に感情に気づくことを避けてきている文化の中にいることなどから、気づくことの難しさが原因であるとScheinは述べています。私たちは、人とのかかわりの中で、不安や怒り、恥かしさ、喜び、幸せなどさまざまな感情を感じながら、実は、「どんな気持ちですか?」と聞かれても、自分自身は気づけないでいることが多いのです。

 感情は、私たちが生きている間、そのときそのときかなり大きな部分を占めていますが、感情を抑制したり克服したりして制御したり、自分の心の中で消したり否定したりしてしまう場面が多くあるのです。自分の気持ちへの感受性を豊かにするためにも、Tグループは大切な学びの場になるのです。ファシリテーターは、自分のこの情動的な反応である感情に気づくことが必要であり、メンバーとの関係の中でともに生きるために大切になると考えられます。

3.判断(Judgement:J)
 私たちは、常にデータを処理して、情報を分析し、評価し、判断を行っています。論理的に思考する能力は大切ですが、依拠しているデータが誤って認識され、感情によってゆがめられれば、分析も判断も適切に行うことができなくなると考えられます。

 無意識のうちに起る自分の情動的な反応に思考が影響を受けてしまうと、分析も適切に行うことができなくなるでしょう。やはり分析・評価・判断する前に、最初に情報を入手する際に情報の歪曲化を最小限に低減するようにしなければなりません。

4.介入(Intervention:I)
 私たちは、なんらかの判断を下し行動します。私たちは感情的な衝動に基づいて行動してしまい、論理的な判断をするプロセスを避けてしまう可能性があります。現実には、私たちは、論理的な判断のプロセスを避けるというよりは、観察やそれに対する自分の感情的な反応を信用しすぎているのです。

 Scheinは、以下のような表現を用いて、観察と行動との関連の適切性について記しています。もし自分が本当に、誰かに攻撃されているならば、その攻撃に対する行動(介入、働きかけ)は適切になるでしょう。しかし、もし思い違いで相手は攻撃などしていないのに攻撃に対する反応を示すと、相手の人にあなたの行動の意図が見えない状況を起こすことになるでしょう。

 ファシリテーターが行うあらゆる行為(働きかけ)は、何らかの意図をもち、何らかの結果を伴う介入であるということを心がけておく必要があります。観察が適切に行われたか、情動的な感情に開かれているか、そして働きかけは判断(どんな意図であったか)と結果から適切であったかなどを、十分に吟味する必要があります。

 コンサルタントやファシリテーターは、この観察、情動的な反応、判断、介入(働きかけ)の4つのステップ を意識することによって、自分の働きかけの適切性の吟味とともに、働きかけが起こる前の観察と情動的な反応の点検と、働きかけの可能性(選択肢)を吟味することができるのです。(つづく)