Tグループとは No.074 誕生から75年さらなる発展のためのパラダイムシフトに向けて:ナラティヴ・アプローチ(Narattive Approach)とは(2):ナラティヴ・セラピーとの出会い(Part 2)
ナラティヴ・セラピーには、もう一つの不思議な問いかけの背景として、「人が問題でなく、問題が問題である」という考えがあります。
前述しましたが、ナラティヴ・セラピーとは「人を問題の主たる責任者であると位置づけることを拒絶し、ものごとの『本当の真実』は存在せず、ただそのことを語るストーリーが存在するという立場を取ること、そして、その人自身に自分の人生を生き抜いていくことのできる資質、資源、能力が必ずや存在しているという仮説を持っていることなどがあげられるでしょう。つまり、その人には必ずや希望があるのだという信念を持っていること」と国重さん(2013)は強く語られます。
また、WhiteとEpstonのナラティブ・セラピーを高橋(2015)は「ナラティヴ・セラピーとは、ドミナント・ストーリー(支配的ストーリー、問題が染みこんだストーリー)をオルタナティヴ・ストーリー(代替ストーリー、問題から解放されているストーリー)へと転換することである。・・・転換とは、ストーリーを修正することではなく、全く異なる視点のストーリー、別ヴァージョンのストーリーへ換えると捉えた方がよい。」として記しています。ナラティヴ・セラピーでは、今自分の人生をとらえているストーリーを否定したり、消去するのではなく、新しい視点からの別のヴァージョンのストーリーを語れるようになる、それはそのストーリーとして自分の人生を生きることも選択肢の中に組み込むことができるようになることなのです。
国重(2013)さんの記述では、ナラティヴ・セラピー(Narrative Therapy) では、「強い影響力を発揮するようになったストーリーを『支配的な物語(ドミナントストーリー)』と呼びます。この支配的な物語によって覆い隠されてしまった挿話をナラティヴ・セラピーでは探し求めていくのです。それは、『あなたにもいいところがあるのよ』というような押しつけではなく、この人が語る話の中に、何か語られていないものがあるだろうかという、『探索』する姿勢が基盤となります。つまり、ナラティヴ・セラピーの大きなねらいは、何らかの「結末」から語られるプロットに沿った物語ではなく、別のヴァージョンの物語(オルタナティヴ・ストーリー)を、相談に来た人と一緒に探索していく、・・・」と記されています(国重、2013)。
国重さん(Kouさんと呼んでいますが)との出会いも、ラボラトリー体験学習を学び続けてきたつんつんにとって、さらに魅力的なものにしてくれました。Kouさん主催のナラティヴ・セラピーのワークショップ(WS)に参加する機会が得られず、結局最初の出会いは、刑務所出所者のサポートをしているNPO法人マザーハウス主催の「ナラティヴ・セラピー~書籍からは学べない会話の紡ぎ方~」というタイトルのWSでした。
刑務出所者、その支援にあたる人、ナラティヴ・セラピーに興味のある人たちが参加していました。その案内文にも、「ナラティヴ・セラピーは、私たちが住んでいる社会文化的考えが維持している『普通』『当たり前』というものを前にして、語ることができなくなっている部分に焦点を当てていきます。それは、その語られないところにこそ、その人にとって大切な側面が潜んでいるとみなすからです。」と。周縁化した人々が一人の人間として生きていくことができる社会づくりを目指してい活動にナラティヴ・セラピーが関わっていることをしったことが、さらにつんつんをナラティヴ・セラピーを魅力的なものにしてくれたのです。(つづく)