Tグループとは No.034 「自己開示」すること:“あのときあそこ”から“今ここ”の自己開示・会話が生まれる

自己開示と言っても、私の何を自己開示するのか、かなり幅広く考えられます。小さな時の私、最近の私、将来の私、と話題の時制だけでも過去から、今、そしてこれから向かいたい私についてまで幅広くあります。

また、話題となる出来事が、目の前の人が知らない人との私の体験なのか、目の前の人と共に過ごしている体験なのかでも、開示の容易さは異なることは想像できます。今目の前の人との関係よりも過去の目の前の人と関わりがない話がしやすいでしょう。

その出来事が自分にとってポジティヴな体験なのか、ネガティヴな体験なのか、ただ感情的な色づけのないニュートラルな出来事なのかによっても異なるでしょう。

 Tグループでやりとりを、上述したように時制(過去「あのとき」、現在「今」、未来「このさき」)と、体験の場(「ここ」、「あそこ」)と分類することができるのではないかと考えています。

 最初の図は、まだまだ私案&試案ですが、そのように2象限で考えてみるのも面白いのではないかと思い、例えばの具体例を考えてみたものです。さらに、出来事のポジティヴ、ニュートラル、ネガティヴの要素をいれるか、もしくは自分のことか、他者のことかといった要素を入れて、3次元のキューブの形で、自己開示をはじめ会話のありようを吟味することができるのではないかと考えています。

 自己開示をはじめ、“今ここ”で体験していることを語ることはなかなか難しいものです。多くの場合、Tグループのセッションでは“あのときあそこ”で体験したことを語ることから始まります。たまたま集まってグループのメンバーがどのような人たちかわからず、グループの中に不安や懸念が渦巻く関係の中で無難な会話から始まるのは自然なことでしょう。

 二つ目の図に示したように、グループメンバーが受容的な態度で、メンバーの話を聞いてくれる関係が少し生まれてくるとその話題は“あのときあそこ”でから“今ここ”での自分のことを語ることが増えてきます。また、そのやりとりを通して、このグループの“今ここ”の場が何を言っても大丈夫な安心していられる場であるかを吟味することになり、会話が深まっていきます。

 時に、その安心が得られない状況、たとえば特定のメンバーの言動の影響を受けて、グループのメンバーが受容されている感覚の欠如やコミュニケーションの不安が感じることが起こリます。そのプロセスがまさに“今ここ”の体験であり、そのことを明らかにして、不安や懸念を低減することに取り組む必要になります。

 グループのメンバーが気づき、その葛藤に取り組むことができるのが大切になりますが、トレーナーやファシリテーターの支援が必要になることがあります。トレーナーやファシリテーターは、そのプロセスに気づいていることが先ず必要ですが、そのプロセスにグループのメンバーがいかに取り組むかを学ぶことができるような支援を試みるのです。

 そうした“今ここ”で起こっている課題に気づき、その課題を乗り越えることを学ぶことができると、“今ここ”での体験を語ることが容易になると考えられます。そのことは、“今ここ”を共有しているグループがさらにどのようにこの先に向かっていこうかという、未来に向けての自分たちのことが話題になることでしょう。こうした一連の活動を通して、グループのメンバーは自分がまた自分たちが取り組みたいことが明確になり、グループはより有機的なつながりを感じることができるのです。

 “今ここ”に起こっていることに気づきながら、そのことを話題にし、そのことが自由に扱えようになることがグループの変化/成長と言ってもいいのではないかと考えています。“あのときあそこ”での話題から“今ここ”の話題(私の気持ちや今グループやグループのメンバーから影響を受けていることなど)を開示し合えることは、グループが成長するためには大切なことであり、またグループの成長を物語っている現象でもあります。

 時として、ネガティヴなことを伝えるとグループが壊れてしまうのではないかといった心配を心に秘めて居続けるのではなく、実は“今ここ”で自分の中で起こる感じたり考えたりしていることを伝えることが大切な意味をもっていることを学ぶことも大切になります。メンバー間のことにしっかり対峙し、葛藤を乗り越えていくことがチームや組織づくりに大切なことであることを学ぶことになるのだろうと思います。

 そして、そのことは、未来に向けての会話も、自由に語り合い、遠い未来の願いがより身近で実感を伴った現実に近づけていく会話を創り出していくのだろうと考えています。葛藤を乗り越えた後に、“今ここ”でのプロセスを大事にしながらー“今ここ”と“あの時あそこ”、“このさきここ、あそこ”でを行き来しながら対話が進められるようになっていることは、グループ、チーム、組織の柔軟性が高くなっている状況であると言えるのではないでしょうか。

 追記です:「自己開示」とは“self-disclosure”、「自己開示する」を“self-disclose”と英語表記されます。開示するということは、過去の自分の隠されていることを披瀝するといったようなすべてを話す“open”であることは違うということです。“今ここ”で、目の前の人との関係の中で今感じていることや考えていることなどを隠さず話すという理解をすることが大事ではないかと、Tグループでは考えています。(つづく)