Tグループとは No.022 体験学習の循環過程(サイクル)とは、問題を発見し解決するアプローチが始まり?

 Tグループをはじめ人間関係、人々の相互作用を通して学ぶ中心は体験学習のサイクルにあると考えられます。時々、「この体験学習の循環過程はどこから来たのですか?」という質問を受けますが、私自身もなかなか文献を辿っていっても、ここからという核心にたどり着けません。ただ、体験学習のサイクルにはいくつかの異なった公式があるにしても、やはりJ.Dewey(1938)による「経験および教育」で提唱しているJ.Deweyの哲学に基づいていると言えるでしょう。Deweyは「即時の行為を遅らせることが観察および判断が介入するために必要であると主張し、行為は目的の達成のために必要である。」は考えています。該当の書籍の紹介は、つんつんの「JIEL所長のブログ」にJ.Deweyの「経験と教育」の書籍の記事を紹介しています。ご関心ある方は、そちらの『プロセスエデュケーション』をキーワードにご笑覧ください。

 その後、Kolb(1984)は、体験学習のサイクルを次のようなステージを経たサイクルとして定式化しています。そのサイクルとは、具体的体験⇒内省的観察⇒抽象的概念化⇒積極的実験⇒具体的な体験です。これは、基本的にはアクションリサーチを重視したK.Lewinによる体験学習モデルと同じであると述べています。Lewinによる体験学習のサイクルは、具体的な体験⇒観察と内省⇒抽象的な概念化および一般化⇒新しい状況における概念もつ意味を検証すること⇒具体的な体験と考えられています(Kolb, 1984)。様々な形の体験学習のサイクルは、応用行動科学として適用される基本的な方法なのです。
 日本にTグループが入ってきて、その展開の中心になったのが、立教大学キリスト教教育研究所(JICE)でした。JICEの資料を見ると、体験から学ぶステップには、<やる>⇒<みる>⇒<考える>⇒<成長する>という記述があります。とてもシンプルな学ぶステップとして体験学習の循環過程を考えていたみたいです。
 体験する<やる>、そしてその体験の中で起こっていることを<みる>、そしてみつけたことからなぜそのことを行ったのかを<考え>、自分がどのように行動するかの課題を考えることが<成長である>と考えていたのだろうと思います。ワンサイクルをイメージして、体験を通して学び成長する流れを考えていたのだろうと思います。
 その後、故H.Y.先生の記述ではないかと思われるのですが、<体験>⇒<指摘>⇒<分析>⇒<仮説化>という言葉で、体験学習の循環過程を書き改められたのではないかと推測しています。この考え方の流れは、Lewinのアクションリサーチのアプローチから由来していると考えられます。現状の生活<体験>があり、その中で問題を発見<指摘>し、なぜその問題が起こっているか、その問題を改善するための要因・変数は何かを考え<分析>し、問題を改善するための変数を1つ取り上げ<仮説化>、それを実験する<新しい体験>へと導く、一連のアクションリサーチの流れとして考えることができのではないでしょうか。
 当時の記録からして、<指摘>することと、フィードバックを授受することと同義語のように登場します。すなわち、Tグループの中にあって、トレーナーから、またメンバーから、一人ひとりの問題(課題)と考えられる言動について、フィードバックがなされることによって問題や課題が浮き彫りになるということが、Tグループの大事な要件であったのではないかと理解することができます。
 日常生活では語られない、聞くことができないフィードバックを、Tグループの中でメンバーからフィードバックとして受けることを通して、体験学習の循環過程は機能し、なぜそのような言動があったのか?Tグループという集中的な対話のグループ体験の中で深く吟味すること、そして変化に向けた試み(ある種のアクションリサーチに取り組むこと)が尊重されたのだろうと考えられます。
 このような問題を発見し、その問題が起こる要因の分析を行い、その問題の改善のための試みを行うことは、個人レベルにおいても、またグループや組織においても、変化成長モデルの大事な基本的な考え方であり、いわゆる問題解決アプローチとして定着していったのだろうと思います。
 個人もグループもそれぞれが問題をもっており、その問題に気づき、その問題を克服することによって成長していくという考え方が前提にあったのでしょう。
 当時、組織開発(Oraganization Development)が、Tグループを源として展開されました。組織開発の定義にはいろいろとありますが、中原・中村(2018)では、Worley & Feyerherm(2003)は、数多くの、組織開発の定義の中から4つの「共通項」抽出していることを紹介してくれています。「(1)計画的な変革であるということ。(2)行動科学の知識を用いること。(3)組織の中で起こるプロセスを対象にすること。(4)組織が適応し、革新する力を高めること。」です。
 Tグループの体験を通して、具体的なプロセスデータを拾い出し、それらを体験学習の循環過程といったアクションリサーチなど行動科学の知識を活用しながら、グループ(組織)の活性化を高める試みを可能にすると考えていたのでしょう。このことは今日、対話型組織開発と対比的に取り上げられる問題解決型組織開発の1つの大事な考え方とと考えられるのではないでしょうか。(つづく)