Tグループとは No.013 セルフサイエンスから「体験を語る」にも発達段階があることを学ぶ

 ラボラトリー体験学習による学びの場を創っているつんつんとしては、体験を語り合う中で、メンバーそれぞれの体験の語りに発達があるというG.Weinstein氏と仲間の研究者との研究成果はとても惹かれるものがありました。

 G.Weinstein氏から学んだ「Education of the Self」では、彼らは自分の体験を語る4つのステージの発達を促進するための教育プログラムであるといってもよいと思います。

 彼らによると、体験を語る過程として、第1段階は「断片的な要素を羅列するステージ(Elemental Self-Knowledge)」、第2段階は「状況まで語ることができるステージ(Situational Self-Knowledge)」、第3段階は「パターンとして語ることができるステージ(Pattern Self-Knowledge)」、第4段階は「自分のパターンを修正/変更できるステージ(Transformational Self-Knowledge)」と考えています。

 第1段階は「断片的な要素を羅列するステージ(Elemental Self-Knowledge)」とよび、自分の体験を記憶している断片的な要素の羅列だけで語るステージです。「楽しいです。」「苦しかったです。」「悲しかったです。」など好き嫌い、楽しい悲しいなど、一語で表現されるようなステージです。このステージでの語りは、語り手の心の中で起こっていることの詳細はわからず、聞き手が推察する必要があります。

 第2段階は「状況まで語ることができるステージ(Situational Self-Knowledge)」とよび、自分が体験したことと関連する状況を語ることができるようになるステージです。「〜なので(because)」、「〜だけど(although)」など接続詞を用いて、外的状況と内的状況とを結びつけて語ることができるのです。ただ、語りは素朴であり、「一方向的」で、状況を通して見られる一貫性は見えにくいのです。

 第3段階は「パターンとして語ることができるステージ(Pattern Self-Knowledge)」とよび、一群のある状況の中でいつも体験する自分の行動の仕方や心の動きをパターンとして捉えられて語ることができるステージです。「年長者の男性と会うと、相手に権威を感じて、ビクビクして発言を控えてしまいます。」などと語られて、内的な反応として、自分のパーソナリティ特性としたり、内的な葛藤として、描写されます。

 Weinstein氏は、第3段階のステージに辿り着くには、トレーニングなどの学びの場が必要であると考えています。その学びのステップとして、「トランペット・セオリー」という「トランペット」をメタファにして8つのステップを考えており、「Education of the Self」の1つの目的としています。そのためには、前掲しましたように、自分に関心を持つこと、そして自分の体験に対峙すること、そしてそれらの体験を「行動」「思考」「感情」のそれぞれの領域で描写することができるようになることが大切だと考えています。そして、それらの描写の中から、一貫性をもった自分の人とのかかわりの行動パターンを見つけ出すのです。このようにして、パターンとして自分の体験を語ることができるようになって初めて、次の成長のステップに向かうのです。

 第4段階は「自分のパターンを修正/変更できるステージ(Transformational Self-Knowledge)」とよび、自分自身のパターンをモニターし、修正し、マネッジしているかを語ることができるステージです。このステージに達している人は、ネガティヴな反応を一時的にとめることができて、状況を再解釈をすることを通して状況に新しい意味を与えることができるようになります。このステージの人は、自分の反応のレパートリーを考えたりして、自分自身の内的な状態を創り出す能力をもっているとも言われています。このステージを乗り越えるためのワークもなかなか難しい一人ひとりの課題を扱うことがテーマになります。それが、「パターンの機能」「パターンの代価、結果」「新しい試み」「試みの評価」と展開されるのです。

 Tグループは、グループの中で対話を通して、さまざまなことを学びます。その過程で、「今ここ」での体験を語りながら自分自身や他者、グループを理解することが大切になります。Tグループの中での相互作用過程を通して、自分の体験を語る発達ステージを高めることも1つの目標として考えることができるのではないでしょうか。Weinstein氏らの提唱する自己知識の発達段階を知ることで、トレーナーは参加者の成長を見る、1つの視点をもつことができるのではないかと考えています。(つづく)

 [発達段階やトランペット・セオリーなどに関しては、拙書「改訂新版プロセス・エデュケーション〜学びを支援するファシリテーションの理論と実際〜」(津村俊充著、金子書房)をご覧ください。]