Tグループとは No.005 J.Gibbの発達理論の4つの懸念を測定する

 シスターがJIEL主催のTグループに参加されて、感銘を受けて、当時、南山学園南山短期大学英語科に併設する学科を模索中でもあり、立教大学キリスト教教育研究所(JICE) の多数のスタッフや当時立教大学に籍を置いていた沢田 慶輔(東京大学名誉教授)など多くの人たちのご尽力で、JICEよりリチャード・メリット教授を学科長に迎え、日本で初めて「人間関係」を冠する高等教育機関が1972年に開設されたのです。それも「人間関係学」の「学」をとり、「人間関係」そのものを学び実践を中心にした冒険的教育がスタートしたのです。名称は、南山短期大学人間関係科です。

 創設の背景にはTグループがあり、南山短期大学ニンカンでは、必須科目として「人間関係トレーニング(Tグループ)」が全員に課していたのです。それ故、Tグループに関する実践的な研究もニンカンに集った教員には強い関心がもたれたものでした。当時(1979年前後)、教育実践の報告として研究レポートを発表する一方で、実証的な研究も始まっていました。その1つが、J.Gibbの小集団の発達理論に基づいた実証的研究でした。

 J.Gibb(1964)は、Tグループ実践の中から「人間は、自分自身及び他人をよりよく受容するようになることを通して成長することを学ぶ」と考えています。その受容することの障害になっているのが、人々が生活する文化に浸透している防衛的な風土(defensive climate)から生まれる恐怖や不信頼という防衛的な感情なのだと考えました。それぞれの人間がもっている恐怖や不信頼をどのように低減させていき、いかに相互信頼の風土を創り上げることができるかを学ぶことによって、個人の成長を図ることができるのです。そのためにTグループは重要な学習機能を果たすことになると考えています。

 Gibbは私たちのさまざまな社会的な相互作用の中に、他者との関係のなかでの恐怖や不信頼に由来する懸念(concern)があると仮定しています。
 ◎受容懸念(acceptance):自分自身や他者をグループのメンバーとして認めることができるかどうかに関わる懸念です。
 ◎データの流動的表出懸念(data-flow):コミュニケーションに関する懸念で、意思決定や行動選択をするとき特に顕著に現れます。
 ◎目標形成懸念(goal formation):生産性に関連しており、「グループが今やっていることがわからない」など個人やグループに内在する活動への動機の差異に基づく恐怖や不信頼に由来しています。
 ◎社会的統制懸念(social control):「誰かにたよりたい」など、メンバー間の影響の及ぼし合いに関わる恐怖と不信頼から生まれてきます。
 J.Gibbの小集団の発達理論は、「津村・山口、人間関係トレーニング第2版〜私を育てる教育への人間学的アプローチ〜、ナカニシヤ出版、p.69-74.」をご覧ください。

 当時、星野欣生氏と山口真人氏が中心になって、4つの懸念を測定する(表現する)項目群を集めて、統計解析を利用して尺度構成の分析を行い始めていました。私が常勤として勤務するようになり、当時多変量分析などに関心をもって研究をしていたつんつんも、Gibbの4つの懸念を測定する尺度構成を完成する仕事に加わることになりました。結構、4つの因子の間には相互関係があり、必ずしもクリアに独立の4因子を抽出することが難しく、最終的に、4因子にそれぞれ重みを負荷した因子分析を行い、各懸念5尺度の尺度構成を行ったことを今でも思い出されます。余談ですが、当時はFortranの言語を用いてプログラムを書き直し書き直しながら、分析を行いました。

 その尺度の中から因子負荷量が高かった4懸念×2尺度の8尺度を活用して、Tグループセッションのふりかえり用紙に、南山短期大学ならびに南山大学の人間関係研究センター主催のTグループ、またJIEL(一般社団法人日本体験学習研究所:ジャイエル)主催のTグループで活用して、全セッションの歩みをふりかえり、学ぶセッションをTグループとは別にもっています。

 話は長くなりましたが、つんつん着任後の学生のTグループでも、我々が作成した4つの懸念尺度を利用して、Tグループ合宿終了後、学内のフォローアップ授業でも利用していました。その当時は、20尺度を使っていたので、毎セッション20尺度にチェックしてもらうには学生にとって負荷が大きいだろうとのことで、毎日最終セッションにチェックをしてもらっていました。

 それらのデータを集計し、毎日の懸念の変化を追うと興味深いグラフが描かれたのです。前回までにお話をした、老練なトレーナーの人たちのTグループでは、1日、2日と、場合によっては3日まで、4つの懸念がぐんぐん高まっていくのです。そして、4日目、5日目と一気に急降下するグラフが描かれるのです。いかに参加者が緊張と不安の中で過ごし、何かを契機にその恐怖に近い懸念が低減するのです。こうした懸念の変動が参加者である学生のふりかえりの中で意味づけられる、それは自分たちの関わり方(言動)がどのように影響しているかが明確に見えるようになることが、Gibbが提唱する、「懸念を低減し、相互信頼の風土をどのように創るかを学ぶ」ことにつながると考えています。

 ただ、こうした大きな懸念の増幅が起こるのが、もしトレーナーの存在であり、大きな低減もトレーナーのありようであるならば、Tグループとは何を学ぶところなのかを再考する必要があると考えたのです。(つづく)