多様性を大切にするということ

 体験からの学びの場をつくるときに「多様性を大切にする」ことの重要性がよく語られます。
 組織やグループは放っておくと同質性の高い集団になりがちで、何かやろうとすると発想が似ていたりします。人は無意識のうちに他者の期待や傾向を読み、それに合わせようとする面がきっとあるのではないでしょうか。だからこそ作業効率が上がることもあり、悪いことばかりではないのですが、新しい発想や現状の変革のためには異質な人の存在が必要です。組織やグループでは生産性や創造性、自由闊達な風土、持続可能性等の観点から「多様性を大切にする」ことが必要なのです。

 

 そして、街や社会となると話はもっと切実です。
 世の中には本当にいろいろな人がいます。年齢、性別、職業、健康状態、能力、性格、経済状態、倫理観、……実に人それぞれ。そんな一人ひとりの人間に「健康で文化的な生活を送る」権利があり、自由があります。

 

 少し前に鉄道事故で亡くなった認知症の高齢者の家族が、鉄道会社に訴えられていた裁判の最高裁判決が下りました。そのケースでは家族に監督義務を認めることはできないという判決で、家族の賠償責任は問われませんでした。鉄道会社の損害はともかく、きっとその判決に安堵した人も多いのではないかと思います。高齢化社会の進展とともに認知症患者も増えていて、その一人ひとりに人権があります。そうした認知症患者の人権をいかに大切にするか。「多様性を大切にする」ことが問われる時代の局面だと思います。

 

 ラボラトリーの学びの場では、他者だけでなく自分の人権をいかに大切にできるかを問われることがよくあります。自分が感じたことや考えたことはいくら強く感じ、深く考えても、言動や態度で表さなければ他者にはわかりません。自分の中の感情、思考でしかなければ、他者は現実のものとして認知できないからです。それなのに「他者と違うから」自分が言えなかったとしたら、表現できなかったとしたら、自分が自分の多様性をスルーしたことになります。このような場面に行き詰まりを感じて、私は「アサーション・トレーニング」を始めました。「アサーション・トレーニング」は私にとって、ラボラトリーで、日常で「多様性を大切にする」ための方法の一つなのです。

 

 今年のJIEL公開講座「アサーション・トレーニング」は7月16、17、18日の3日間。連休を利用した3日間集中のこの講座で、今年も多くの方に「アサーション(正直で率直な自己表現)」の学びをシェアし、共に学び合いたいと思っています。関心をお持ちの方はぜひご参加ください。
https://jiel.jp/wp2/programlist/labstepup/ouyou1601/