自分の権利を守る

JIEL研究員として、アサーション・トレーニングを行う機会が2週続けてありました。最初は愛知県立大学大学院で専門看護師のフォローアップセミナーの授業として、翌週は名古屋医専で卒業を目前に控えた精神保健福祉士や保健師の卵のみなさんの特別授業として行いました。どちらもそれなりに時間をかけることができ、特に後者は朝9時半から夕方5時半過ぎまで、丸一日かけて行うことができたので、アサーションとはどういうものなのかをレクチャー、個人ワーク、グループワークを通じて、じっくり共に学ぶ場を提供できました。
アサーショントレーニングは進行途中と最後では、参加者の反応がかなり違います。特に医療関係者は対人援助職ということもあり、他者を尊重することはしっかり身につけているのですが、自分の気持ちや考えを大切にして、自分の権利を守るというアサーションのかかわり方は頭ではわかっても、すぐに言動として表現できない人が多くいます。
例えば、午前中の事例研究演習では、具体的な事例を挙げて「アサーティブにかかわるなら、相手にどのように話しますか?」という課題を出して、何らかのプランを考えてもらうと、自分の感情や正直な気持ちにはあえて触れず、客観的な事実だけを並べて、スムーズに事が運ぶことを優先した案を発表するグループが現れます。そんなとき、「アサーションは物事をスムーズに進めることではなくて、自分の気持ちや考えを正直に相手に伝えることです」と言うと、一瞬、意外な表情をされることもあります。
ところが、午後の演習を終える頃になると、「本当に思っていることを伝えると、波紋を起こしやすいと思っていたけど、逆に余計な誤解を生むことがないし、相手の構えがとれることもあるんだと気づきました」といった発言が出てくるのです。アサーティブなかかわりを心理的に受け容れ難い状況から、可能性を見出して、できれば取り入れたいと自ら思う状況へ。こうした参加者の変化に触れると、人が成長する力の強さやトレーニングとして行う体験学習の力を実感します。
人が生きることを支える医療関係者のみなさんには、他者の権利だけでなく、自分の権利も守って(自分を大切にして)バーンアウトすることなく、長く仕事を続けていってほしい。私はアサーション・トレーニングを通じて、そのお手伝いができたらいいと思います。


そして、最近は医療関係者だけでなく、あらゆる分野で働き、今を生きる人々にアサーションを知ってもらいたいと思います。それは、私自身が「あのとき、もう一言言えたら、自分の真意を伝えられたはず」と思ったり、「あの人は断定的な言い方をしているけど、みんなの意見をききたくないのだろうか」と咄嗟に反発するのではなく、逆に関心をもったりして、人間関係に対する見方が変わってきたからです。自分の見方が変わると、他者への信頼感や可能性を信じる気持ちも変わってきます。
他でもない世の中にたったひとりの自分の権利を守り、自分が自由に活動できる範囲を広げていくことは、きっと誰にとっても大切なこと。いろいろな人々のお役に立てるように、私はアサーション・トレーニングのファシリテーターとして研鑽を積んでいきたいと思っています。