AI(Appreciative Inquiry)を学び始めて

昨日、一昨日と南山大大学院教育ファシリテーション専攻の夏期集中講義「ファシリテーション研究グループレベル」に参加し、Appreciative Inquiry(AI)というホールシステムアプローチ(=物事の全体を捉え、その一部の解決を図るのではなく、組織システム全体の構成を最適化する方法)を学んでいる。この集中講義は8月後半の土・日に続くので、まだ学びの途中であるが、問題の理由を探り、その解決に努めるギャップアプローチ(=部分的な問題解決により、部分最適を優先する方法)と違い、AIは1つひとつの体験を重ねていくたびに、それぞれの目的に加えて対象者が自ら自分に必要な気づきや学びを得ていける側面があり、その効力の高さに驚いた。
例えば、AIの導入段階では、まず対象者がペアに分かれて、それまでの自分の活動のなかで心に残る「最高の体験」をお互いに聴き合う「ハイポイント・インタビュー」を行う。これは、自らが最大限力を発揮できたときにいかなる環境や人間関係があり、自らのどのような強みが発揮できていたのかを思い起こし、組織のより良い未来・あり方を探るためのベースをつくる行動である。しかしながら、その行動はそうした目的に対して機能するだけでなく、実際にやってみると自分の「最高の体験」を語り終えたあと、自分自身の可能性を信じられるような気持ちが湧いてきたり、今の自分に必要な環境や関係性、さらにはどんなときにも大切にしたい価値観や方向性が見えてきたりして、組織というよりもまず自分のために時間を使ったのだという実感がもてる。そういうところが、より良い組織づくりのために、例えば組織内の連携体制だけを変えようとする問題解決型のギャップアプローチとは大きく違う点である。
考えてみれば、当たり前のことだが、より良い組織をつくるためには、まず組織の一人ひとりが仕事に対する前向きな意欲や関心をもち、健かな状態であることが必要だ。そこに効力を発揮する「ハイポイント・インタビュー」は、まさに人を機械や部品のようにとらえるのではなく、生命体としての人間ととらえ尊重し、その集合体としての組織に働きかけるホールシステムアプローチならではのやり方だと思った。
当研究所所長の津村先生もJIELブログ「所長のつぶやき」に、このAIの集中講義について書いている。その後半に、「こうしたアプローチは、(企業ではなく)答えがない組織、コミュニティ、たとえば、平和のためのプロジェクト、とか地域づくりなど、より民主的な風土づくり −一人ひとりが生き生きと生きる社会作り−(それが目的)において活用されることが大切なのではないか」と書かれている。
その点について、私は異なる視座に立っている。必然性を感じない目的や目的の方向性そのものが間違ったケースに、AIを用いることは確かにあってはならないと思う。しかし、企業が具体的な数値目標を掲げて行う取り組みのなかにも、それ自体が企業の健全な運営のために必要で、全社員の雇用を確保しながら、より良い未来を描くためにはまずその数値の達成が必要だというときがある。そういうときに従来通りのギャップアプローチで社員の行動を統制し、数値目標の達成だけを追求することは、好ましくないと私は思う。むしろ、AIのようなホールシステムアプローチで、一人ひとりの仕事への意識や取り組み方、組織内の関係性が変わっていくチャンスを提供したほうが、働く毎日にしあわせを感じ、健やかに働ける人が増えるのではないだろうか。そして、そうした人を増やしていくことによって、企業にも民主的な風土が生まれる可能性が広がる。また、私は自らの日常にしあわせを感じることができる人を増やしていく取り組みは、「平和のためのプロジェクト」ではなくても、結果として「平和の実現」につながる働きかけだと考えている。
目的をどのように吟味するかは難しい。結局はファシリテーターの倫理観、価値観にもとづいた判断に任されることになるのだろうが、今の私は現代社会の中で多くの人が働く場である企業をホールシステムアプローチのカヤの外に置きたくはない。
この件に関しては、津村先生のお考えを詳しく伺っていくと、接点もありそうな気がするのでまたお話を伺いたいと思う。ただ、所長である先生に対しても、こうして異論を唱えられるJIELの民主的な風土の中で、私は大いに学ばせてもらっている。その点に対しては、大いに感謝している。 先生、ありがとうございます!