Tグループとは No.061 個人やグループ成長のパラダイムシフト:つんつんを今トレーナーとしてグループに立たせてくれるもの

 私は1979年にTグループと出会い、それ以来Tグループのトレーナー体験を重ねていく中で、先輩トレーナーと共にたくさんの体験をさせていただきました。その中で自分の中に違和感というか、そうはありたくない、いやそうはできない・やりたくない自分を意識するようになりました。それは、グループの中のメンバーが問題(課題)となる自分の関わり方を指摘され、それを意識し、回りもそれに対してフィードバックを重ね、該当の個人がその問題の改善に取り組み、セッションを重ねる中でそれを実現できていることを承認し合うような場面によく出会いました。今もなお、そうした場面は生まれています。きっとこのことは、個人が成長するためにとても大切な体験であり、学びになっていると考えています。

 多くの参加者はいろいろな職業経験を積みながら、自分の他者との関わり方のクセのようなものを身につけてきており、そのクセをグループの中で気づき、学び直すチャンスに、Tグループは大切な機能をしていると思います。このことは、否定しませんが、参加者の主体的・自発的な営みとしてそのことが実現できているといいのですが、ともすればトレーナーの鋭い指摘により、問題点が浮き彫りになり、そのことを受け入れることに困難を感じる人がいたり、グループの中で受け入れている“フリ”をして過ごしてしまうメンバーが現れていることも、後で聞かされることがあったのです。また、Tグループより日常に帰ってきて、「あなたのTグループは、どんな体験?」と聴かれた人が、思いもかけない答え(ここでは書くことをやめておきます)を返されたのを私の耳に入ってきて驚いたこともありました。

 長年のTグループトレーニング経験の中で、人の関わり方は、グループの中でのメンバー相互交流(会話)によってさまざまなありようとしてその人が現れることや一人ひとりの可能性を実感しはじめています。

 この「Tグループとは」のシリーズの中で、つんつん流の「人間関係とは」の話を記しています。古くは、K.レヴィンも、個人の行動は、その人のパーソナリティだけでなく、環境要因とのかけ算(関数)であると提唱しています。

 こうした考えをサポートしてくれるのが、「社会構成主義」の考え方だと思います。「真実とは1つ:真か偽」、「正しいことが1つある:正か負」、「個人が何かを持っている」ということを否定すること。それぞれのかかわり(会話)を通して、お互いの関係の中で個人やグループに関するリアリティが生まれてくるという考え方です。

 さらに、「社会構成主義」をベースに誕生している「AI(アプリシエイティヴ・インクワイアリ)アプローチ」が、欠点や問題点に光をあてるよりも、その人が、またグループや組織がもつ「イキイキと生きられる源(ポジティヴ・コア)」を必ずもっていて、メンバー間の問いかけを通して「ポジティヴ・コア」を見つけ出し、個人やグループがイメージできる未来像を明確にし、その未来像に向かうエネルギーがモチベーションを引き起こし、さらに継続性にも強く影響を与えるという考え方です。

 AIアプローチでは、4つD、【発見する(DISCOVERY)】⇒【理想の未来を描く(DREAM)】⇒【デザインする(DESIGN)】⇒【宿命づける・持続する(DESTINY/DELIVER)】というステップで示され、AIアプローチを用いた組織開発(OD:Organizational Development)やチームづくりが提唱されています。このような図式が示されると、どうしてもこのステップを踏むことがAIアプローチだという誤解を招くおそれが起こります。そうした中で、AIの哲学をもった人材の育成として、ダイアナ・ホイットニーら(市瀬博基訳)の「アプリシエイティヴ・リーダーシップ」の考え方は、人やチームを育てることを支援する身としては大きな可能性を与えてくれています。

 さらに、AIアプローチを実践していると、必ずしも、自分の体験の語りの中で、特に、AIアプローチでは「ハイポイントインタビュー」を行い、自分なりに頑張って取り組んだ体験に光をあてて、「ポジティヴ・コア」探求の問いかけをします。

 このときに、グループや組織のあるメンバーによっては、「私は、それほどたいした取り組みや体験をしたことがありません」と、自分のこれまでの職業体験の中でのありようをポジティヴにとらえられていない人に出会うこともあります。そのようなメンバーとの対話を続けて、自分のイキイキ生きることの源になる「ポジティヴ・コア」を見つけ出していくためには、ナラティヴ・セラピーの哲学と方法が、私たちに探求の哲学と方法を教えてくれます。

 ナラティヴ・セラピーの哲学も、社会構成主義の考え方をベースに、AIアプローチで大切にしたいと考えている人間観と重なることがあります。ナラティヴ・セラピーでは、「人を問題の主たる責任者であると位置づけることを拒絶し、ものごとの『本当の真実』は存在せず、ただそのことを語るストーリーが存在するという立場を取ること、そして、その人自身に自分の人生を生き抜いていくことのできる資質、資源、能力が必ずや存在しているという仮説を持っていることなどがあげられるでしょう。つまり、その人には必ずや希望があるのだという信念を持っていること」と国重さん(2013)は記しています。

 一人ひとりのもつ人生を生き抜くための肯定的なリソースを見つけ出すことを大切にするアプローチが実現すれば、Tグループという小世界において、一人ひとりが違いを認め合いながら、グループ(コミュニティ)として共に生きる世界を創造していくことが可能になることに挑戦できると考えています。また、共生の社会の創造に向けて取り組むために何が大切なのかを学ぶことを、メンバーもトレーナーも対等・公平な立場で取り組むことができると考えています。

 このシリーズでは、引きつづき「社会構成主義」「AIアプローチ」「ナラティヴ・セラピー」の話を書き綴っていきたいと考えています。(つづく)