Tグループとは No.030 ロジャーズの中核3条件の態度をもつことの大切さ

 Tグループの中では、メンバーが“今ここ”での体験、それは自分が自分に対する感情や思考、他者やグループに対する感情や思考についてオープンに、グループメンバーとそれらのプロセスデータを共に吟味し、個人やグループが向かいたいと願う(実現したい)方向を明確にし、そこに向かうためのありようを探求し、学びを深めていきます。

 そうしたラボラトリー(Tグループ)の中で、メンバーが自由に探求する試みがなされるためには、Rogersの中核三条件の態度は、Tグループのトレーナー(ファシリテーターとも呼ばれる)にとってはとても大切になると考えています。

 それらは、「一致」、「受容:無条件の積極的関心」、「共感的理解」の三条件です。

 坂中さんたち(2015)は、Rogers(1957)の「建設的人格変化のための必要十分条件」を紹介してくれています。Rogersによると、
①二人の人が心理的な接触をもっていること
②第一の人(クライエントと呼ぶことにする)は、不一致の状態にあり、傷つきやすく、不安な状態にあること
③第二の人(セラピストと呼ぶことにする)は、その関係の中で一致しており、統合していること
④セラピストは、クライエントに対して無条件の積極的関心を経験していること
⑤セラピストは、クライエントの内的照合枠を共感的に理解しており、この体験をクライエントに伝えようと努めていること
⑥セラピストの共感的理解と無条件の積極的関心が、最低限クライエントに伝わっていること
であると述べています。

 「一致」は、第③の条件に記載されているものです。「第二の人(セラピストと呼ぶことにする)は、その関係の中で一致しており、統合していること」と書かれている“一致”です。Rogersは、“一致(congurent)”の他に、“純粋な(genuine)”、“統合された(integrated)”、“真実(real)で居ること”、“透明であること(transparent)”で表現しています。本山さん(2015)は、セラピストが一致している状態とは、クライエントとの関係の中で経験していることをゆがめたり否認したりするのではなく、ありのままに気づき、意識しているということであると述べています。

 「受容:無条件の積極的関心」とは、第④条件と第⑥条件に記されています。坂中さん(2015)は、「クライエントの体験しているあらゆる面を、カウンセラーの枠組みから否定、肯定せずに、なんの条件もなく、一貫してそのまま暖かく受けとめてゆく態度であり、クライエントをかけがいのない一人の個人としてありのままのその人を尊重し、心の底から大切にする態度であって、単なるスキルや技法ではない。ただし、完全な無条件の積極的関心は理論的にしか存在し得ないものであり、無条件性は程度の問題である。」と語ってくれています。

 「共感的理解」は、第⑤条件と第⑥条件に示されています。三國さん(2015)は、as if..(あたかも〜のように)といった相手の“内的照合枠”からの感覚を忘れないことが大切であると記しています。また、「Rogersが、『あたかも』の感覚を決して失わずに、正確にそして、感情的な構成要素と意味を持って他者の内的照合枠を正確に経験することです。」と記していることも紹介されています。

 特に、第④条件の「受容:無条件の積極的関心」と第⑤条件の「共感的理解」に関しては、第⑥条件においてRogersは再度重ねて語っています。それは、いずれの条件も、カウンセラー側が「自分はクライエントを無条件の積極的関心をもっています」、「自分はクライエントを共感的に理解をしています」と思っているだけでは、無条件の積極的関心をもっていることでもなく、共感的理解をしていることでもないと、Rogersは伝えてくれているのです。すなわち、「無条件の積極的関心」と同様、「共感的理解」は、そのことがクライエントに伝わっていないといけないということです。

 このことは、Tグループのトレーナー(ファシリテーター)にもとても大切なことだとつんつんは考えています。グループメンバーが、トレーナーが「無条件の積極的関心」をもってくれている、「共感的理解」を感じてくれていると、そのように経験しているならば、「メンバーが“今ここ”での体験、それは自分が自分に対する感情や思考、他者やグループに対する感情や思考についてオープンに」なることができると考えているからです。

 また、長くTグループを経験してきた身として、3つの条件の内、特に「受容:無条件の積極的関心」が第一条件として、大切にする必要があると考えています。グループメンバーをどれだけ「受容:無条件の積極的関心」をもち、グループメンバーを一人の人間として尊重しているか、そしてそのことがメンバーに伝わっているかがまず関係づくりのベースになると考えています。

 あえて順序づけるならば「共感的理解」が続き、「一致」が、トレーナー(ファシリテーター)が自分自身のありようを吟味するために考えていくと良いのではないかと思っています。以前に、坂中さんと、こうした順序のこともお話をしたことがあります。その時にも、確かにそうかも知れないが、「受容:無条件の積極的関心」が一番難しいと話されたことが印象に残っています。

 最後に、No.028で記した「“今ここ”のプロセスに働きかけるトラップ(trap:落とし穴)」の1つとして、「一致」と関連する介入をあげておきたいと思います。

 Tグループでは、「コンテントとプロセス」を大切な視点として扱います。その中で、コンテントとプロセスの「一致」を探求するような視点があります。すなわち、「言っていること」と「感じていることや考えていること」との「一致」を求めやすくなります。特に、このことを大切に扱いたいと考えているトレーナーにとって、自分自身の中で起こる特定のグループメンバーへのある気持ちや考えが生まれると、それに正直にあらねばならないと感じ、トレーナーである私は「一致」を体現していないのではないかと考え始めます。そして、グループメンバーに突然、メンバーにとっては突飛もない視点からのフィードバックがそのトレーナーから発せられる可能性があります。その気持ちや考えが、「受容:無条件の積極的関心」から生まれていることを見失い、「共感的理解」というよりも、自分の枠組みの中で判断し、そのメンバーの行動は、問題であると感じ考え、指摘し、修正を求めたくなってしまうトラップです。

 こうしたトラップは、真剣にTグループに取り組もうとされているトレーナーほど、その思いは大きくなってしまうのではないかと思っています。つんつんなりの解釈ですが、「受容:無条件の積極的関心」と「共感的理解」の中にあっての「一致」ということが大事になると考えています。もしくは、もっと「一致」を学ぶ必要があるのではないかと思っています。(つづく)