Tグループとは No.026 体験学習の一つの目標として「内省的実践家(reflective practitioner)」になること

 体験学習の学びの大きな特徴でよく言われることがあります。それは、「釣った魚を獲るのではなく、魚の釣り方を学ぶことを学ぶのです」と。実際には、学びの場で、私のありようであったり、グループのダイナミックスであったり、体験学習を通して、学ぶこと(魚にあたるもの)はあります。ただ、「釣り方を学ぶ」とはそれだけではないと言ってもいいかもしれません。ニンカン時代の初代学科長である故R.メリットさんが、よく「釣り方を学ぶ」と言っていたのを思い出します。その時に学んだことは、共に学んだ目の前の人との関係の中で学んだのであり、今後の生活にいつも生かされれるとは限らないのです。

 セルフサイエンスを学んできたUMASSでは、G.ウェインシュタイン先生が話されたことがあります。体験学習の場で、相手の目を見ること(アイコンタクトの大切さ)、相手とハグしたり握手したりすること(身体的接触が親密さを増すこと)などを学習して帰って、いつもじっと相手を見たり、いつもハグを求めたりすることが、学習の場で学んだことだから、そのことばかりやっていることが人と共に生きるためのいつも術かというとそうではないでしょうというような話をされていました。彼は、そのように1つの行動を学んで実行することを、確か「プラスティック・メイド」の学びといって、批判していたと思います。

 そうならないためにも、大事なことは、状況を見て、何が必要か、何を行うことが大切かと考えて、よく考え、仮説を立てて、自分やグループの活動を修正していく必要があるのです。

 このことは、アメリカの組織心理学者C.アージリスとD.ショーンが『組織学習』において提唱した、シングルループ学習とダブルループ学習という概念に当てはめることもできるでしょう。学んだことをそのまま(従来の枠組みに従って)やり続けること(シングルループ学習)では、環境に適応して生きていくことはできないと彼らは提唱します。そのためには、自分の枠組みや従来の行動様式を改め、新しい枠組みや考え方を取り入れ、学び直しながら生きていくこと(ダブルループ学習)が大切になるでしょう。つんつんは、ダブルループ学習の学びを促進するために、ラボラトリー体験学習の循環過程を学ぶことは意味をもつだろうと考えています。

 「学び方を学ぶ」ことの先に、どのような専門家像があるのでしょうか?D.ショーンが、人と関わることを専門とする職業人は、内省的実践家(reflective practitioner)であると提唱しています。佐藤氏は、「反省的実践家」と呼び、柳沢・三輪両氏の訳書では、「省察的実践」とタイトル訳がなされています。つんつんとしては「内省的」という言葉を体験学習の循環過程の<意識化>というステージで関連付けて、「内省」をするということを大切にすることと統一的に使うことを考え、「内省的」という言葉を使っています。

 内省的実践家とは、教育者であるならば、学習者との関わりにおいて、その状況の中で自分のとった「行為に対して内省する(reglection in action)」ことが行われ、学習者と共に、より本質的で複雑な問題に立ち向かうことができる専門家であると述べられています。このことは、ファシリテーターも、コンサルタントも、カウンセラーも、法務実務家も、企業人も、どのような種類の職業人においても、目の前の人とと関わっている体験のまっただ中で、内省し、目の前の人の反応や自分の中で起きているプロセスをモニターし、それらの吟味を通して話題を転換したりある事柄に光をあてる問いかけをしたりしながら、行動修正ができることを意味しています。

 体験学習の循環過程を活用すると、内省的実践家とは、<体験>のまっただ中で、<意識化>⇒<分析>⇒<仮説化>の一連のサイクルを経て、目の前の人に対して適切な行動(働きかけ・介入)ができることであると考えられます。ただ内省的実践家になることは、なかなか容易なことではありません。

 内省的実践家になるために、自分の体験を一度立ち止まり、ふりかえりをすることが大切になります。ショーンの言葉を借りるならば、状況と関連させながら特定の行為について内省すること(reflection on action)が大切になるのです。

 体験学習を実践するファシリテーターの場合、体験学習の設計から実施までをファシリテーターの「体験」と捉え、その体験で起こったことを体験学習のステップの<意識化>⇒<分析>⇒<仮説化>をするというサイクルを生かし、ふりかえりを経て、自分の行動のレパートリーを広げていくのです。

 グループに関わるコンサルタント、とりわけ、プロセスに関わり、個人やグループの成長にかかわることを実践されている方、またTグループなどのトレーナーやファシリテーターをめざされている方は、特に、仮説化のステップで、いかに具体的な課題<選択肢>を考えることがとても大切だとつんつんは考えています。次回の実践の場、担当するグループで、「参加者を大切にする」とか「参加者の自主性を尊重する」といった抽象的な<仮説化>ではなく、非常に具体的に、このような場面で、私は誰にどのような言葉を用いて伝えるのか?メンバーのAさんにどんな言葉を使って何を質問するのか?グループの全体に何を話すのか?対立する二人の関係の中に入り、一人ひとりに質問するとしたら何をどのような言葉を使って聞くのか?などと具体的な選択肢を描き、メモしておくことをお勧めします。

 そのように書き留めた具体的な行為が、体験の中で幅広い選択肢となって機能するようになると考えています。少なくとも、つんつんもそのようにして選択肢を増やしてきたと思っています。(つづく)