Tグループとは No.025 ラボラトリー体験学習における「体験」は、実験か?練習か?

 ラボラトリー体験学習におけるグループワークや対人関係のコミュニケーション実習における「体験」はどのような意味をもっているのでしょうか?

 もう大分前になりますが、「体験」をしてもらって「失敗させる」ことを意図的に行っている研修機関や研修担当者のお話を伺ったことがあります。

 ラボラトリー体験学習を実施する際に、まず、対象となる学習者の理解のために情報収集(主には、研修担当者との面談が中心になります)を行い、学習者が現場でどのような状況の中で仕事をしているのか、そして現場に帰ったらどのような行動が生まれていることを願っているのかを、またご相談の機関が置かれている状況やどのようなミッションや未来を描いているかなども含めて、担当の方と話をします<ニーズ調査>。願うならば、参加者の声を聴いたり、現場の様子を観察したりできるといいのですが・・・。

 その活動を通して得たデータをもとに、依頼の研修の目的を議論し(一人の場合にはもちろん議論ができませんが)、決めます。目的とは少し遠い先を見通し、設定をするわけですが、その目的を目指して、今回の研修はどのような位置づけになるのか、どのようなことについて理解を深まればいいのか(認知)、それとも何かができるようになればいいのか(スキル)、または何かを大切にしたいと考えるようになること(態度)をめざすのか、該当の教育プログラムの具体的なねらいを考えていきます<ねらいの明確化>。

 ねらいをシンプルな言葉に書き表した後、そのねらいを実現するために、現場での活動、日頃の活動などを考え、体験学習で準備する体験は類似した課題や比較的仕事と比較的関連性が高い課題が良いのか、それとも全く異なる課題(日常を離れた課題)が今回のねらいには適切なのかを考えます。その他、相互作用の量を豊富にするか、あまり相互作用をしないような課題(レクチャーや映像などを活用する)がいいのかなども、参加者の体験学習への準備状態(レディネス)によっても異なります<実習の内容などの検討>。

 ラボラトリー体験学習の基本的な進め方としては、ねらいと関連しながら、その体験(グループワーク)を通して、考えるべき問題や課題を見つけ出し、体験学習のステップを参加者に意識してもらい、学びを深めていく学び方が1つの進め方です<ふりかえりの進め方の工夫>。

 具体的な手順では、「ねらい」を提示し、「進め方・手順」を説明し、体験学習の<体験>が行われます。その後、日本では一般的には、ふりかえり用紙を用いて、準備された質問に答える形で参加者のグループワーク体験の中で気づいたことを書き出します。それぞれのメンバーが<意識化>したデータ(それぞれの見方や気づき)を分かち合い、なぜそのことが起こったのかまでディスカッションが展開されるように工夫します。また、ふりかえり用紙の項目に「これからの新しい場面で」とか「現場に帰って」とかを記し「今後の自分が取り組みたいこと、課題は何ですか」といった問いに答えてもらい、体験学習の循環過程を活用して学ぶことを学んで頂くことになります。

 米国でのつんつんが体験したラボラトリー体験学習では、ほぼふりかえり用紙を利用する機会は少なく、ファシリテーターが直接口頭で参加者に質問をしながら、参加者の回答をフリップチャートなどにメモしながら、<意識化>⇒<分析>⇒<仮説化>のステップを進めていきます。これも参加者の状況によって進め方が異なるのでしょう。

 話は、戻りますが、体験学習における<体験>する実習の意味を考えておく必要があります。日本でのTグループの導入時も、またラボラトリー体験学習(実習を使った学び)においても、<体験>の中で、学習者やグループの問題や課題を見つけるための<体験>になることが多いと思います。

 時には、<体験>という名の<失敗>を通して、学習者に学んでもらおうという意図を明確にもつ体験学習の実践を行っている可能性があります。ダメな自分を乗り越えるために何をすればよいか?を問うて、学習者に迫るのです。痛い目に遭って学ぶことが大事な社会には好都合です。しかし、それで本当に学べているのでしょうか?ひょっとすると、「失敗すること」を学んでいる可能性があります。

 そうした中にあって、体験学習の<体験>を通して、<成功>して学ぶということも考えておく必要があると考えています。<成功>した要因には、グループメンバーのどのような言動があったからなのか?と話し合うことはエネルギーが生まれますし、やったことから学ぶことにより現場での再現性も高くなります。やったことから学ぶのであって、やらなかったことをやったとすればうまくいくかどうかは全く未知数です。時として、やらなかったことを指摘されたり、拾い出したりして、学びとして持ち帰ることがありますが、果たして現場で機能しているのか少々疑問です。

 また、体験学習の実習<体験>は、現場で実践するための具体的な言動の練習をしているという認識をもつことも大切とつんつんは考えています。

 体験学習において<体験>することは、問題・課題発見の<体験>学習になりやすいのですが、成功する<体験>であり、練習としての<体験>であると考えるとずいぶん参加者の学びには変化が起こると考えています。とはいえ、成功しやすい課題がよいといっているわけではありません。

 そのためには、グループワークなどの体験学習の前に、何が大切か、どんなふうにするとより他者を理解できたり、グループに影響を与えることができるかなどの認知的インプットを生かすことです。逆言うと、小講義などをした後で行っているグループワークなどは、素朴な実験をしているというよりは、方向性を示したトレーニング(実験と練習)をしているという認識があると良いのではないでしょうか。

 また、練習としての体験をより大切にしようとするならば、プログラムを構成するときに、2回に渡る体験学習の構成を考えると良いでしょう。最初からミニレクチャーで、課題を明確にするのではなく、学習者の体験を通して自分の課題、グループの課題をふりかえりを通して明確にしてから、もう一度体験学習に臨むのです。1回目は、実験的に、2回目は練習的な体験となるように配置するのです。(つづく)