カウンセリングからファシリテーションへ(2012年9月の記事ですが・・・)

本記事は、2002年9月12日に、南山大学のHPにブログ風記事として書いたものです。
10年以上、経ったけど何が変わったのでしょうか?大学のHPの整理に伴い、再掲させていただきます。
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 景気の低迷下,企業では,リストラ,ダウンサイジングと効率化を求めたマネジメントが行われています。人的資源の流動化といえば聞こえがいいのですが,リストラと中途採用者の活用で,従業員同士がお互いにいたわり合いケアし合うといった関係は希薄になってきています。その中で,IT化,国際化の波が押し寄せ,職場のストレッサーは急増しています。その一つの現れとして,心理的に不安定になり,鬱病が増えているとも言われています。そうした人々(従業員)を回復するために何らかの治療的な行為が必要になり,カウンセラーをおく企業もあるようです。確かに,精神的な問題を抱える人々への治療的・医療的処置は大切であることは言うまでもありません。
 このことは,学校教育の現場の中にあっても同じようなことが起こっているように思います。学校現場でいろいろな問題が発生し,問題の子どもたちに対してカウンセリングの必要性が叫ばれ,スクールカウンセラーの配置が実施されはじめてます。その治療に誰があたるのかの適否については,ここでは議論を差し控えておきます。ただ,こうした状況がこのままでよいかと言えば,多くの皆さんは「NO」でしょう。
 種々の企業体の中にあって先見の明があるところでは,このままでは「お互いをケアし合う,育て合う,もしくは支え合う,いわゆる信頼し合える企業風土が壊れても生まれてこない」と考え始めています。そうした企業では,たとえば《メンタリング》の制度を導入しようとして,人材開発にコストをかけ始めています。《メンタリング》とは,「成熟した年長者(メンター)が,若年者や未熟練者(メンティ,プロテジェ)と,基本的に1対1で,継続的,定期的に交流し,信頼関係の構築を通じて,メンティのキャリア発達を支援すると共に,心理・社会的な成長を支援する」仕組みをさしています。
 いわば,メンティの成長のために,専門性(課題指向)の成熟と心理的安定(人間指向)を促すことがどれほどできるかが大きなメンターの役割になるわけです。まさに,メンティの成長を支えるファシリテーターになり,メンティの成長のためにいかにファシリテーション(援助促進)ができるようになるかが重要になるわけです。そして,その関係は互いに影響しあい,メンティによってメンターも成長することになるのです。
 今だからこそ,治療から教育へもっともっと私たちは目を向け,関心をもち,そしてそのことができる人材を創り出していかなければならないと感じています。学校教育の中にあっては,スクールカウンセリングにおける予防的・開発的側面を強調する教育活動の必要性も強調され始めています。これからの社会にあって,治療者-被治療者という関係ではなく,学習者を支援しながら相互に学び合う対等な関係づくりができる人材(ファシリテーター)の養成が必要になってきていると言えるでしょう。1対1の関係の中だけではなく,学習者一人のための心理的サポートもしながら,組織全体を観ることができ,その状況にふさわしい問題解決行動ができるといった,総合的な学習者支援機能を果たすことができる人材と,さらにはその人材育成ができる人材が,これからの社会では求められていくと考えています。
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