国際協力セミナー参加から学ぶ:ファシリテーターの介入の心得

 もう14〜15年近く経つでしょうか?南山短期大学から南山大学に移籍して、新しく人間関係研究センターを設立した際に、「国際協力セミナー」と題して、センター主催のワークショップを実施しました。
この記事のはじめに、アメリカに留学してから15年と書かれていますので、私がアメリカに留学してほぼ30年が経とうとしています。
 15年近く前のワークショップの記事ですが、だいぶ国際協力の舞台は変化してきているのでしょうか?少し、長い記事になっていますが、掲載させていただきます。
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 6月3日(土)4日(日)の二日間にわたって、南山大学人間関係研究センター主催で行われた『国際協力セミナー』に一参加者として参加しました(参加者は、20名ほど)。講師は、筑波大学の平山恵先生。平山先生といっても、津村は、15年前に自分がアメリカに留学中に知り合った仲間なので、私からは「めぐみちゃん」、平山先生からは「としさん」と愛称で呼んでいる関係なので、私のセミナー参加がめぐみちゃんにやりやすかたったのか、やりにくかったのかは彼女に聞いてみないとわかりません。だけど、南米、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、などなど様々な国で活躍している彼女には、誰が参加していようと、その場の人たちとともに過ごすことは、一流です。以下は、津村がめぐみちゃんの話を聞いて、まとめたものであり、文責はすべて津村にあります。(なぜなら、平山先生の意図通りに津村が聞いていないかもしれないので、そのように付け加えておきます。)
 セミナー参加の前に、『近代化の理論』(富永健一著、1999、講談社学術文庫)を読み、「発展途上国への援助とは発展途上国の近代化を助けることなのか?」について1000字程度(A41枚程度)で書いてきていただきたいと宿題が出されました。その本は、文庫本とは言え、500頁にわたる大作です。そして、内容が近代化とは、産業化とは、社会構造とは何か、社会変動とはなどなど、久しぶりに自分の頭が煮えくりかえるほど、刺激を受けました。
 初日は、集まってきた20名ほどが、2グループに分けられ、グループを作り、2日間のプログラムを過ごすことになる。そのプログラムの最初に、持ってきた宿題を提示しながら、「自分が呼んでもらいたい名前」「セミナー参加への期待」「援助が近代化を助けるか?」のキーワードを用いて自己紹介をしていった。その後、恵ちゃん自身の自己紹介と、国際協力、今回は、意図して使っている「援助」についての小講義が行われました。
(1)援助形態の3つの種類
 ・ODA:政府開発援助:公的援助、二国間援助の功罪(一つの価値観)
 ・国際機関による援助:WHO、ユニセフ、ユニスコなど:多国間援助の功罪(多様な価値観)
 ・NGO:二国間でできない援助ができる(日本の例として、ボランティア貯金のサポートの功罪→単年度主義)
(2)援助の歴史
 ・60-70年:西欧は、社会インフラ-衛生-水道、井戸、学校、病院建設
 ・80年代:BHN(Basic Human Needs)病院までの{アクセス}、{コントロール(誰が決定することができるかなどの問題に関わる)たとえば、水くみは女性、その水をどのように利用するか決めるのは男性}
 ・90年代:HDI(Human Development Index):人間の開発をしないといけない:生きててよかったと思えるところまで:教育を受ける機会、延命を選択するしない、ジェンダーの問題、→最終的に何が残る?(津村):その人が選択したものがよい、残る価値はないかもしれない:でも、(最終的には)Autonomy:自分が自分の生き方を決めることができるということか?!
(3)援助のはじまり
 ・日本は、賠償問題から始まる
 ・欧米では、いわゆる、票集め。東西対立からスタート→自由主義社会VS社会主義社会→南北問題になる
 ・NGOは、布教から始まる
(4)援助、協力の後の姿を見ると、これでよいのか?の疑問がわく。
 ・カンボジア:国連アンタックの介入:内戦→西欧化
 ・ニカラグア:人を殺してモノを盗るようになる:お金を持ちたい:貨幣経済の導入
 ・イエメン(?):夜もキラキラと光る夜景
(5)イエメンにおける援助活動を例にして問題提議
 ・モノがとれない、とるモノがないから、援助が入らない国だったが、→OECD(Organization for Eco-cooperation Develoment)による、・小国に対する援助促進、・内戦が終わった国への援助促進、よりルワンダ、カンボジア、イエメンなどへの援助が行われるようになる。:多くの場合、東西の西が負けて東が援助:自由化しましょうと言うことから。
 ・イエメンでは、出産は、膝つき産であった。ところが、2000年までに4000人の助産婦を作ろうという計画の元で、日本(初期は結核だけに援助)、ドイツ、オランダ、アメリカのODA、そして国際機関と、さらにはNGOも協力して援助することになる。目的は、イエメンの1400/10万ほど(ちなみに、日本で6、7人/10万、スウェーデンで2、3人/10万、アメリカで4人/10万)のMMR(出産時の、新生児や母親の死亡率)を下げるために。仮説としては、介助している人が非衛生的で、伝統的産婆が問題であると言うことから。
 ・イエメンの女性にとっては、膝つき産が楽な姿勢での出産形態であるにも関わらず、西洋の医学、近代医学が科学的であるということから、ベッドの上に仰向けに寝て出産する産婆方式を導入することになる(オランダの人類学者いて、イエメンの女性たちにインタビューしているにも関わらず)。近代化、科学的な方法であるという思いこみがそうさせてしまっている。そして、デリバリーベッド(折り畳みの動くベッド)がどんどん運び込まれる。これは、とても大きな介入である。そして、さらには、包帯&注射器&はさみなどが入った治療セットが配られることになるが、注射器の針など今後ずっと交換が不可欠(エイズなどの問題を考えた場合)なものの導入が適切な導入といえるのだろうか、大きな問題である。
 そして、昼食。昼食中には{伝統}の反対語をさがせという宿題をもらい、昼食中も、津村と何人かの参加者とはしりとり遊びを楽しむように、「伝統の反対といえば?」「新作」「新作といえば」「レンタル」「レンタルといえば」「借り物」「借り物といえば」「そのとき限り」「そのとき限りといえば」「短い」などと、{伝統}の反対語探しも楽しいモノとなった。
 昼食のプログラムは、反対語を紹介しあってスタート。続いて、FASID(財 国際開発高等教育機構)が提供してくれた教材「裏庭養豚プロジェクトの改善」のプリントとVTRを見て、各グループごとにPCM(プロジェクト・サイクル・マネジメント)手法の簡易スタイルで、国際協力プロジェクトの見直しと討議を行った。これも、また津村には、興味深いものであった。
【1】参加者分析(関係者分析)
 ケースのプリントとVTRを参考にしながら、関係している人や組織をすべて列挙する。そして、その特徴は何か、利害・関心は何かを丁寧に記述しながら、グループでリストアップする。その作業を通して、社会を知っていくのである。その話し合いの過程でメンバーから疑問点などが出てきた際には、「info」マークを付与しておき、現地調査でその事実をしっかりインタビューする。
 最近の社会を知る視点として、RONと言う言葉が使われる。
 R(esource):資源、人・モノ・金=Tangible Resourceだが、Intangible Resourceもある。
 O(rganization):組織
 N(orms):Social Norm(社会規範)、価値観
【2】問題分析
 このステップでは、原因結果をツリー上にぶら下げながら、それらの因果関係を明確にしていこうという作業である。初日は、この問題分析の道半ばで、午後5時を過ぎ、解散となった。
 第2日目(6/4、日曜日)は、昨日の援助は近代化を助けるかのキーワードの2つ目を考えるように、めぐみちゃんから指示を受け、それぞれそのキーワードを説明することで、昨日のふりかえりと今朝の挨拶を行う。
 津村は、昨日は、「均衡の攪乱」と言っていた。これは、富永氏の著作「近代化の理論」の中での社会変動が起こっていくプロセスが、まさに個人やグループの成長のプロセスでクルトレビンが提唱する「unfreezig-moving-freezing」のプロセスとあまりにも酷似した展開理論枠であり、そのunfreezingを引き起こさせることを「均衡の攪乱」とよび、それをいかに内発的なエネルギーとして起こさせる(させるという表記自体が外発的なんだけど)ことができるか、まさに、介入のありよう、ファシリテーターのありように関わるキーワードなので取り上げた。そして、2回目のキーワードとしては、養豚のケースを巡る討論をしながら、これが適切適切でないとか、これが良い悪いということを、介入前にはすべてはできないわけで、やりながら改善していく、改良していくプロセスが大切という意味で、「試行錯誤:プロセス:絶えまぬ努力」というキーワードを書き記した。{「人間関係トレーニングにおける個と集団の変容モデル」のミニレクチャーを読んでください。}
【3】目的分析
 問題分析の系図をもとに、そのカード一枚一枚を「望ましい状態」に書き直して、「手段-目的」の関係を明確にする作業を行った。この作業を通して、前段での問題分析が適切に行われていたかの吟味にもなるし、次につながるプロジェクトの選択作業への大きな橋渡しになるのであろう。
【4】プロジェクトの選択
 このステップでは、もう今回のセミナーの時間はそんなに残っていなかった。それでも、いくつか考えられる、プロジェクトを考え、それらを実際に実施するとしたら、どのような結果を引き起こすか、様々な選択基準をリストアップし、プロジェクト実施に関わる問題点等を引き出していった。
 すべての参加者のみなさんは、本当に熱心に参加され、熱い討論が実施されたみたいである。若干、津村は、ここまで来ると、エネルギーは落ちてしまい、ぐったりお疲れモードになってしまった。
 そして、最後に、「よそ者の役割とは」何かを、一人ひとりカードに書き出した後、一緒に作業したメンバーと分かち合い、そして、全体グループで、シェアーして、国際協力セミナーの研修は終了した。
 この「よそ者の役割とは」を考える作業は、まさにファシリテーターのありようを探る、とても大きな一助になった。
国際協力セミナーから学ぶファシリテーターの介入の心得
 (1) 今の国の状況、グループの状況のデータをしっかり得ること:観察する、調査する
 (2) 内側の力では、動き出せないときの大きな力になること:石を投げる、波風を立てる
 (3) グループで、話し合っているときに、ちょっと介入してほしいときがある
   ・これでよいのかどうか、不安になっているとき
   ・話し合いが停滞しているとき
   ・サブグループに分かれて話し合っているときに、ジョイントしにくくなっているとき
 (4) ファシリテーターの介入のタイミング:早いとファシリテーターへの依存が強まるし、あまり遅くなるとグループでことが進んでしまっていて修正ができなくなる。
 (5) データの記述・表現仕方は、できる限り具体的な表現にすること
 (6) やっぱり、コンテント(参加者分析、関係者分析、問題分析、目的分析など話し合っている内容に関わること)とプロセス(その話し合いがグループの中で、どのように話し合われているかに関わること)の2点の視点は絶えずもっていること。